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日章旗のデューズオフ

第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



養生法の行使で快感を得る理屈が分からないが、確かに先刻よりも身体が火照って下腹部辺りが重い。産毛が総毛立ち、俄か風邪の前兆を思わせるゾクゾクするような心地が、毒となって全身を犯している。これを快感と呼ぶのなら、俺はこの感覚が苦手だと思う。でも『気を交ぜる』と必ず及ぶ作用だというのなら、慣れる他ないだろう。
天元の催促に再び顋を鳴らすが、その辺りで割り込む俺の鎹鴉の低いひと鳴き。いつの間にか広間の中まで入り込んでいたようで、頭上の畳を爪で掴みつつ、修行場へ急ぐよう恫喝してきた。
「……なんだ、名前の鴉かよ。地味に邪魔すんじゃねぇっての。まだ猶予はあんだろ。このまま一発くらいは抱ける算段だってのに」
「柱タチガ焦レテオリマス。名前様ノ性格ヲ考エレバ先回リモ有リ得ル位デスノニ、ナカナカ居ラッシャラナイノデ。特ニ風柱殿ト炎柱殿両名ハ、元音柱殿ガ名前様ヲ引キ止メテイル事ヲ察シテ、苛立チヲ隠セテオリマセン」
「彼奴ら名前に執心し過ぎだろ、俺が言えた事じゃねぇが。まぁ俺様に負けず劣らず顔も性格も良いからな、此奴は」
「元音柱殿、早クニゴ決断サレタ方ガ良イカト。岩柱殿モ少々荒レテオリマス故」
「あー、はいはい。……ったく。お預けかよ」
どうやらこれで切り上げるようだ。しかし、陰陽の調和と精気の循環を充分に成していない気がするが、大丈夫なのだろうか。中途半端に痛みが残されたままでは天元の為にならないのでは。
訝しむ俺を他所に、天元はあっさりと半身を転がした。身体の圧迫が解かれると同時に人肌の熱が離れたせいか、妙に胴腹が寒々しい。俺が濡れた唇を拭う間にも短く息を詰め、深層筋の撥条を利用して一気に上体を起こしている。
そして、一瞬だけ憐憫を帯びる流眄を寄越した後、何事も無かったかのように柔らかな微笑みを噛んでみせた。「付き合わせて悪かったな、お前のお陰でもう腕も目も痛くねぇから、そろそろ行くか」と続けた言葉に、既に微塵も色味など含まれてはいなかった。



第捌話 終わり
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