第9章 あの人の大切な人
階段を駆け下りた。
昼休みから早退して学校を出てきた私だったので、二学年のクラスに行っても既に虹村先輩はいなかった。
無駄に重い扉を開けて、体育館に入る。
やっと見つけた
虹村先輩!
【虹村】
「あ?お前っ、」
『理由とかはもういいので!
とりあえず来てください!!』
にじむーの腕を引く。
突然のことだったからか、いつもはビクともしない彼が動いてくれた。
【虹村】
「お、おい!どこ行くんだよ!?」
『~ッあーもう!あなたの大切な人を助けに行くんですっ』
その一言で何かを察したのか、虹村先輩は止まった。
【虹村】
「・・・おまえ、知ってんのか」
語尾に「?」も無い、確信的な問いかけだった。
だからこそ、私の心に突き刺さったのだと思う。
彼の目は、冷たかった。
まるで、隠していたものがバレたかのような、子供の怯えた目。
今まで幸せだった人が、世界の理不尽さを知ったときのような絶望感。
自分の心に土足で入られた時のような、あの冷たい目。
そのすべてだった。
【虹村】
「・・・いつからだ。」
『・・・虹村先輩を見てれば、わかります。
だっていつも・・・幸せそうには見えなかった』
こんな拙い言葉じゃ伝わらないかと思っていたのに、虹村先輩は面食らったような顔をした。
伝わってくれているなら、光栄です。
バレたか、みたいな顔してる。
見てればわかるんです。
それに私は、結末を知っているから。
その結末がどんなに辛いことでも、変えてみせる覚悟はできてる。