第4章 12月16日【あと8日】
「森下先せ……んんっ、森下さんとこういう風に落ち着いて話すのって初めてかも」
今までは顔を合わせれば言い合いだったし。
何より、私が一方的にやたら牙を剥いていた気も……しなくはない。
「確かに。俺ら、仲悪かったし?まあ、俺はただの照れ隠しだったけど」
特に意味の無い言葉だと思う。
彼は事実を淡々と述べているだけ。
それにいちいち反応してしまう私はおかしいのだろうか。
ビールを一気に喉に流し込む。
あれ?
こんなに美味しかったっけ。
「お、いい飲みっぷりだな〜」
そう言いながら、店長がお皿を片手に店の奥から出てくる。すごく香ばしくていい香りがする。
「はい、お待ちどーさん」
目の前に置かれたのは、まだ熱々で湯気の立つ、唐揚げだった。
「ただの唐揚げじゃないんだよな、これが。食べてみ」
自信満々の余裕の笑みで、カウンター席に座る私を見下ろす店長。少し癇に障ったのは言うまでもない。
「いただきます」
一口サイズの大きさなので、ぱくりと全て口の中には入ってしまう。
口の中に広がるニンニクの香り。
噛むと溢れる肉汁。じゅわ〜という効果音が似合う食感だ。
「んっ!なひほれ!おいひい!」
噛めば噛むほど、肉の美味さとニンニクの香り、ぱりっと香ばしく揚がった衣がどんどん旨みを増していく。唐揚げの上にかかった塩ダレがまた旨さを倍増ししていく。そこらにあるような唐揚げとは何かが違う……
「それはな、鶏のささみの唐揚げだ」
「ささみ?」
「もも肉よりヘルシーだし、何より普通の唐揚げより味が軽いだろ?しつこくないし、安いし、ヘルシー。少しパサつくが、調理方法によってはそれだって変えることができる」
言ってる事の8割ほど聞いていなかったが、とりあえずこのいけ好かない店長が作る料理は(認めたくはないが)美味しいということが分かった。それだけ分かれば十分だ。