第6章 六
『ハァハァ‥‥』
は肩で息をし
熱く痛む手のひらをぎゅっと握りしめる
昼の時間に馬車の上で教わっている
符術の練習を夜な夜な皆の寝床から
離れたこの川辺でこうして練習している
少しでも早く仲間達の元へ戻りたい
の気持ちを嘲笑うかのように
失敗した符術は自身の身体を傷つけていた。
額に流れる汗をタオルで拭き取ると
べったりと赤く汚れる
そんな手のひらを見て見ぬふりをし
グッとタオルを握りしめる
「‥‥」
ガサリと枯葉を踏む音と共に
安倍晴明がいつもとは違う寝巻き姿で現れた
『お師匠様‥‥‥』
「調子はどうだい?そろそろ休まないと
明日に響いてしまう」
そう、優しい言葉をかけてくれる晴明から
隠す様には後で手を握りしめ
ありがとうございます。と同じく笑顔で返す。
晴明は、そんなの姿に
眉間にしわを寄せる難しい顔をして
ジリジリと距離を詰めてくる
『お師匠様?』
「手、見せて?」
優しい言葉がアンバランスな程
不機嫌な顔をして近づいてくる晴明から
は1、2歩あとずさる
「何で、逃げるんですか」
少し低めに凄む声には
ぴくりと身体を強張らせ
ジリジリと迫る晴明から逃げる様に
後ろへと足を動かした。
『ーーーっ』
後ろに踏み出した足は
まっすぐと地面に着くことは無く
ぐらりと身体が背後に倒れる
目の前には、驚いた表情の晴明が
こちらに手を伸ばす姿が目に入ったが
不安定な体勢にぐっと目を瞑ると
パシャン
と大きな音と背中への痛み
冷たい水の感触に、川へ落ちてしまったことが分かる
幸いお尻がつき肩程の深さで
流れもあまり無く流されることはなかった
びっくりしたと目を開ければ
に覆いかぶさる様に
川へと倒れる晴明も
同じ様にパチパチと数回瞬きをしていた
2人の視線が合わさると
どちらとも無く笑いが溢れる
クスクスと笑いながら
は目の前の無邪気な笑顔を
見せる晴明の水気を含み
顔に張り付く前髪を
手でそっと耳へと流す
『お師匠様の泣き黒子、凄く色っぽいですよね』