第8章 セバス夢:残り香
【残り香】
それはある日のこと。
『えっとこれは・・・なんて読むのかな?』
字の読み書きが苦手な名無しは、先日シエルに借りた本と睨めっこしていた。
人と会話できる程度に英語を身につけても、長いこと日本語しか目にしてこなかった彼女にとっては、字にするとどうも苦手らしい。
名無しは本に栞を挟むと、それを手に部屋を出た。
向かった先はキッチン。
『あの、セバスチャンさん?』
「お、名無し嬢。どうしやした?」
『セバスチャンさんは何処ですか?』
「セバスチャン殿なら、庭に行きました。ってワイルドが言ってる」
キッチンの扉から顔を覗かせると、そこには料理の仕込みをしているバルドとスネークの姿しかなかった。
ありがとうございますと頭を下げ、名無しは庭に向かった。
『・・・何処だろう?』
庭に出たもののセバスチャンの姿は見当たらない。
代わりに、箒で地面を掃くフィニの姿しかなかった。
『あのっ!フィニさーん!』
「え?あ、名無し様!どうしたんですか!」
名無しの呼びかけに、フィニは走って来ると小首を傾げた。
『セバスチャンさんが庭に居るって聞いて来たんですけど・・・』
「セバスチャンさんなら、リネン室に行っちゃいましたよ?」
『そうですか。ありがとうございます』
頭を下げ、今度はリネン室へと歩き出す。
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