第5章 甘さを求めて
「私からのプレゼントが待ちきれないのでないなら、用件は何ですか?」
『あ、えっとね。東洋では、女の子がチョコレートをあげるんだって。だから私もあげたいなぁって思ったの』
「チョコレートを…ですか?」
私の言葉を聞いたセバスチャンが眉を寄せた。
「誰にあげるんですか?」
ちょっと不機嫌そうな声。
『えっと、坊ちゃんでしょーフィニでしょーバルドでしょー』
それからーと、指折り数えればセバスチャンの眉間のシワが深くなっているのを私は気がつかなかった。
「ダメです!」
『えっ?』
私の言葉を遮ったセバスチャン。
見上げれば、明らかに不機嫌な顔でこちらを見下ろしていた。
『なんでー?ねぇ、なんでー⁉︎』
「っ!そんな瞳で言われても許可できません!/////』
悲願の眼差しを向ければセバスチャンは一瞬たじろぐも、再び夕食の支度を始めてしまった。
『ちぇっ。セバスチャンにもあげようと思ったのに…』
と、頬を膨らませれば、「ならば私だけにくれればいいじゃないですか」と料理に視線を落としたまま言われた。
『でも、皆にはお世話になってるし、いいお礼の機会だし…』
人差し指をくっつけていじけていると、はぁ〜と盛大な溜息が聞こえた。
「なら、条件付きでしたら許可いたしましょう」
その言葉に私はパッと顔を上げた。
目の前のセバスチャンは、何処か悪戯っぽい笑みを浮かべ人差し指を立てながら
「私にはとびきり甘い名無しをください」
そう言った。
『え、私を…?』
小首を傾げればセバスチャンは静かに頷いて、笑みを崩さないままの顔が近づいてきた。
耳元で優しいテノールが響く。
「 」
『っ!?やっぱり結構です!//////』
私は逃げるようにキッチンを出た。
頭の中にセバスチャンの言葉と、私の鼓動が響き渡る。
バレンタインは大人しくしておこう…。
(私のベッドでしか食べられない、甘い貴女自身を頂けるなら許可しますよ?)
end