第34章 〜34〜
広間に入って、まず信長様に挨拶しようと向かっていると視線を感じた。
視線の元を探すと、光秀さんがニヤニヤしながら私を見ていた。
(……まあ……言い方によっては打ち解けた……ってことでいいよね……。でもあんまり遊ばれないように気をつけないと……政宗が不機嫌になると私にも被害が来るってさっきので学んだからね……)
光秀さんに毅然とした態度で視線を返しながら信長様の元へと向かう。
「信長様、失礼します。宴に呼んでもらってありがとうございます。」
「構わん。酌をしろ」
「はい」
信長様の隣に座って、差し出された盃にお酌をする。
(今日は気軽な宴って感じ……?)
信長様がいる場所は他の武将達より1段高くなってはいるが、この前の宴とは違い皆との距離が近い。
(家臣の人も前より少ないし……軍議の後はこういう雰囲気なんだ)
信長様がお酒を飲み干したのを見計らって、もう1度注ごうとすると信長様は新しい盃を私の顔の前に持ち上げた。
「貴様も飲め」
「……はい。」
盃を受け取ると、私が持っていた徳利を奪い上げ私の盃に並々と注いだ。
「……これ日本酒ですよね」
「俺が注いだ酒が飲めないとでもいうか」
「……飲みますよ(……でたパワハラ……)」
信長様に付き合って飲んで、二日酔いになった事を思い出しながらも、断ることなど出来るはずもなく、盃に口をつけて一気に流し込んだ。
「……あれ、この前のお酒と違う……」
「気がついたか。貴様、元は料理人だけあって舌は確かなようだな」
「度数……結構弱いですよね……」
「貴様の為に仕入れさせた。ありがたく飲め。」
「ふふ、ありがとうございます」
信長様はどこか上機嫌に笑った。
(……俺様だけど……やっぱりこの人……いい人なんだよね……)