第32章 〜32〜
(食事処もいない……。あと、御殿にいらっしゃらなかったら、もしかして信長様の所……それなら流石に私用で尋ねるわけには……)
私は廊下を歩きながら困り果てていた。
御殿に押しかけるのも少し気が引けて、城内で秀吉様が居そうな所はすべて回ったつもりだが、見つからずにいた。
(しょうがない……覚悟決めて御殿行ってみるかな……)
私は秀吉様の御殿に向かいながら、鼓動が早まるのを感じていた。
(ああ、緊張する……。でも……ちゃんと言わなきゃ。秀吉様にはどうでもいいことかもしれないけど、私が前に進めないから……申し訳ないけどお時間貰わなきゃ。)
決心が緩まないように、覚悟を決めながら御殿へと足を進める。
御殿へと着くと、深呼吸をして心を落ち着かせた。
門をくぐると、私に気がついた秀吉様の家臣が声をかけてきた。
「秀吉様に御用ですか?」
「はい。あの、約束は無いんですけど……少しお話したい事があって……」
「少々お待ちください。今お伝えしてきます。」
「お願いします。」
取次をお願いして待つ間、落ち着けたはずの心臓がまた高鳴り出した。
(……大丈夫。秀吉様ならちゃんと話聞いてくれるはず。自分の為にも後押ししてくれたの為にも……家康の為にも……。)
改めて小さく深呼吸していると、背後から優しい声が私を呼んだ。
「ああ、優鞠だったか」
「……はい。お忙しいのに申し訳ありません。」
私が頭を下げると、秀吉様は大きな手で私の頭を優しく撫でた。
「そんな畏まるな。とりあえず中入れ」
「……ありがとうございます。」
秀吉様に促され、私は御殿へと足を踏み入れた。