第5章 〜5〜
言う事を聞こうとしない女に、また少し腹を立てたそのとき、家康はふと女の腕に目が止まった。
「腕。」
「……は?(今度は何……)」
「腕、出して。」
「な、なんで……」
「それ、火傷でしょ。」
「火傷……?(……言われてみたら……左腕痛い……かも……)」
「はぁ……。自分の腕なのに火傷した事も気がついてなかったの?相当馬鹿だね。」
「……馬鹿だなんて貴方に言われたくないです……」
「……なんでもいいよ。そのままだと秀吉さんが煩いから。手当する。」
「!……貴方は……秀吉……さんの……仲間なの……?」
「仲間っていうか同盟組んでるだけだから」
「同盟……」
家康はひらりと馬を降りて、女へ近づく。
女は少し後ずさりながら家康をまじまじ見る。
「(めんどくさいなぁ)ほら。腕出して。」
「……はい……」
(この人が誰かわかんないけど、さっきの秀吉さんと同盟組んでるってことは……ってことはこの人もどっかの大名……?武将?なのかな……
咄嗟にさっきは逃げちゃったけど、なんとなく2人は悪い人では無さそうだったし……)
先程から必死に考えに考えて戦後時代にタイムスリップしたのだと。
信じられないけど信じるしかないと、そう自分に言い聞かせ続けた。
夢ならそのうち覚めるかもしれないが、目の前の男に腕の火傷に気付かされ、ズキズキと刺すような痛みを感じて夢ではないんだと思い知らされる。
(正直、タイムスリップを理解したとしても誰を今信じていいのかわかんないよ……歴史もかなりうろ覚えだし……。でも手当してくれるっていうし大人しくお願いしようかな……結構痛いし……)
家康は大人しく差し出された左腕を見て溜息をつく。
(信長様より火傷が酷い)
そう思いながら懐から手製の傷薬を取り出し、腕に塗り始めた。
「……ッ!!!(し、染みる……!!!)」
「とりあえず今は応急処置。後で救護班にちゃんと見てもらって。他の場所は?」
「……大丈夫です………」
「はぁ……(なんで俺がこんなこと……)」
今日いちばんに大きいため息を洩らしたその時
森の中から聞きなれた二人の声がした。