第5章 〜5〜
政宗に声をかけ状況を尋ねようとした。
が、女の様子がおかしい事に気がついた。
焦っているような、呆然としているような……
いくら信長を助けたとはいえ、この女が何かしら火事と関わっている可能性もあると秀吉の中で考えていた。
「(いったいなんなんだこの女は……)おい、政宗!」
「秀吉……ちょっと来てくれ。お館様を助けたこの女なんだけど……」
政宗に、この女が不思議なことを聞いてきたと小声で耳打ちされる。
今いる場所がわからず、なんで俺達が着物を着てるのか、そして今が何年かわからない、だなんて。
年号や場所は確かに学の無いものなら分からないかもしれないが、着物を着る理由なんて尋ねることすら無意味なことだと秀吉は思った。
そして女の見た目が不審すぎる。
挙動不審のような様子も気になる。
信長様に合わせる前に、少しでも女の素性を知っておきたいと思った。
「……なぁ、お前、詳しく話を聞かせてくれないか?」
政宗と女を凝視しながらそう尋ねると、真っ青な顔を勢いよく上げ、寺とは反対方向に逃げ出した。
「あ、おい、まて!」
政宗が呼び止めようとするも女は振り返りもせず逃げていく。
「政宗、追うぞ。女を信長様に会わせる。」
「はいはい。わかってるよ。」
そうして森の入口で休ませていた馬に跨り、政宗が女が逃げていった方へ顔を向けながら言った。
「先に行くぞ。俺は西側から追い詰める。」
「あぁ、俺は信長様に一言伝えてからすぐに反対から追う。家康にも声をかけて手伝わせるか。」
「あぁ」
そう言って政宗は森へと走り出した。
秀吉は信長へとかけ戻りながら、女の脚で走ったとしても馬には勝てまい。
すぐ捕まるだろうと思っていた。
その少し後に、女がこの火事の元凶と相対する事など少しの想像もせずに。