Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第16章 ★嫉妬心:瀬見
【天草 side】
高校1年生になって3ヶ月が経ったその日、私は体育館に忘れ物をした。それに気付いたのは既に放課後で、慌てて体育館に向かうと、もう部活が始まっていた。
そろりそろりとシルバーの重たいドアを開け、ドアの隙間から中の様子を覗く。そこには別世界が広がっているように見えた。
『すごぉ……!』
ダンッ、と重くボールが床を跳ねる音。でもボールはとても軽そう見た目をしていた。気になって"もっと"、と思ってしまった。食い入るように見ているうちにドアの隙間がだんだん広がり、
『う、わっ!?』
そのまま中へ倒れてしまった。のに、誰もこっちに視線を向けない。それくらい、そこにいる全ての人が自分のやっていることに集中していた。
その中でも一際目をひいたのは、隣のクラスの男子だった。何度か見たことのある彼は、コートの一番後ろに立っていた。
ボールを手にし、軽く回す。それからヒュ、と高く上げ、走り、踏み込み、跳ぶ。腕が、しなる。ボールの真芯を手のひらが捉え、ドライブのかかった珠になる。
ズドッ………!
『っ………!』
私の横を掠め、壁に当たり、ボールがバウンドする。てんってんっと転がるボールを眺め、それから彼に目を移す。
「ッシャア!」
ガッツポーズをして、彼は爽やかに笑った。そこだけがキラキラ輝いて見えていた。ドクン、と心臓が鳴る。目を離せない。違う、離したくないんだ。
気付いた時には、彼のことが、瀬見英太のことが、好きになっていた。
たまたま同じクラスだった牛島に聞き、マネージャーが不足していることを知った。私は中学でバレー部だった。「知識もあるしマネージャーには最適だ」と、牛島は言った。
『天草星菜です。バレーは経験したことがあります。よろしくお願いします!』
今にしてみれば、随分不純な動機だ。"好きな人を見ていたいから"なんて。そしてそんな片想いは、唐突に終わった。
「好きだ。付き合ってほしい」
『……へ?』
そんな間抜けな声を出した、2年の夏。カナカナと、切な気なヒグラシの啼き声の木霊する体育館で、1年越しの片想いは実を結び、瀬見と私は晴れて付き合うことになった。