Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第14章 ★桜の季節∶花巻
【天草 side】
ピピピピピ。
3年間聞き続けたアラーム音が、今日も鳴る。高校入学と同時に買ってもらったスマートフォン、液晶をタップしてスヌーズをかける。もう一眠り。
ピピピピピ。
再度鳴る。ん、と唸りながらそれを止める。ちょうどそのタイミングでLINEが来る。貴大だった。いつもより早いと思いつつ、画面をタップ。スクロール。
『えぇと…家出たから10分後……え、10分!?』
寝惚けていた頭は瞬間に覚醒。そしてフル回転ですべきことを考える。待って待って、今日何日だ。
今日は、
『卒業式だったあぁぁぁぁぁぁあ!?』
ピンポーン。
ああ神様、もし、もし居るのなら、お願いです。
『1時間戻してえぇぇぇぇ!』
ピーンポーンピピピピーンピーンポーン
インターフォンからは、ひっきりなしに連打する音が鳴る。その内にドアを叩く音まで聞こえてくる。どうやら、時間は止まってくれないらしい。
「ったくお前なぁ、最後の最後までこれかよ」
『その節はどうも、お世話になりやした』
「趣味が遅刻ってのはダテじゃねぇな」
くっくっく、と貴大は笑う。あたしが高校の3年間に遅刻した回数は、優に100を超える。先生にいくら指導を受けても直らない。だって二度寝、最高じゃん。
そんなあたしが卒業できるのは、幼馴染みの貴大のお陰。貴大が家によって起こしてくれなかったら、留年どころじゃなかっただろうし。
『あたしが卒業できるの、貴大のお陰だよね』
「そうだぞ。崇め奉れー」
『え、それはちょっと……』
「ひくなっつーの」
『あだっ!』
ポカっ、と頭を叩かれる。むぅ、と頬を膨らませれば、そこをツンっとつつかれた。いつもみたいに笑ってふざけて、ゆっくり歩く、通学路。でもこの景色、隣に貴大がいる景色を見るのは、今日で最後だ。
そう思うと急に切なくなった。走り出したい、叫びたい、そんな衝動に駆られる。離れるのは、イヤだ。
車道側を歩く貴大の手を、そっと握る。驚いたのが分かったけど、貴大は拒絶してはこなかった。
『貴大』
「あ?」
『なんでもない』
「ん」
東北に、まだまだ春の気配は遠い。だからいっそ、春なんて来なければいいと思ってしまった。
卒業なんて、したくない。
高校からも、貴大からも。