Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第10章 アヤカシとわたし《第3体育館組》
今日のお土産はばあちゃん家から届いた夏蜜柑。どうぞと渡すと、わらわらと群がる。
『赤葦さんもお1ついかがですか?』
「頂きます」
賑やかに蜜柑の取り合いをする姿に苦笑し、赤葦さんの隣にストンと腰掛けた。
『賑やかですねぇ』
「まったく、よく飽きないよね。あの烏、日向って言うんだって。よく元気になったよ」
『日向、へぇ…』
まだ出会って少しだけど、天真爛漫な日向の雰囲気は、その名前にぴったりだと思った。
『いいなぁ、楽しそうで』
「友達とは遊ばない?」
『あんまり……というか、友達がいないです。視えることがバレて、小学生の頃にハブかれたことがあって。わたしの居場所は、学校にも家にも、どこにもないから…』
「そう……」
呟いた赤葦さんは、蜜柑を1つ口に入れた。俯いたわたしの脳裏に、苦い記憶が蘇る。喧騒が、まるで遠くから聞こえる。
もう嫌だ。あんな思いは、したくない。わたしは人と関わるのが、とても、こわい。
「1人じゃ、ないからね」
『へ……?』
すっとんきょうな声を上げたわたしに、赤葦さんは小さく笑みを浮かべた。
「ここには俺もいるしあいつらだっている。辛くなったら、いつでもおいで。それに居場所は用意されてるものじゃない、自分で作っていくものなんだよ。あんな風にね」
そう言って赤葦さんの示す先には、水道のホースから水を出して遊ぶ、日向が大きい人達に囲まれて、笑顔でじゃれ合う姿があった。心が、ほころぶ。
『そう、ですね……頑張ってみます』
「うん。だから約束しようか」
『はい?』
「いつかここに、友達連れておいで。それは明日かもしれないし、1ヶ月後かも、来年になるかもしれない。でも、待ってるから」
ね、と笑って、赤葦さんは左手の小指を差し出した。それにわたしは右手の小指をそっと絡めて、あの歌を口ずさんで、笑った。
その時、日向とリエーフがわたしを呼んだ。戸惑って赤葦さんに目線を移すと、穏やかな表情には行っておいでと書いてあった。
「行っておいで」
『えへへ、いってきます』
少し照れ臭くて、鼻の頭を掻く。みんなの元へと走るわたし。飛び跳ねた水飛沫が、太陽の光を反射して、キラリと光った。
いつか、"友達"とここに来たいな。
そんなことを、思ってみたりして。
The End.