第2章 光忠と口吸い
「………ああ…ダメだね、これ以上は…」
仕掛けてきたのは光忠なのに…。
私はそんな非難がましい目をしてしまったのかもしれない。
光忠は私の両肩に手を置いて距離を取ったかと思うと顔を伏せて一拍。何かに耐えるような、やり過ごすような長い溜め息を吐いた後にようやく顔を上げて、いつもの困ったような笑顔を見せた。
「さてと、後は火を止めて味が染み込んだら完成だね。もう盛り付けようか?」
「………………え…そう…ね…?」
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう、堀川くん」
「え、あっおはよう、堀川くん」
私からパッと手を放して、煮物の火を止めたタイミングで堀川くんが厨に入ってくる。
随分と良いタイミングだと思ったけれど…なるほど、光忠の練度は高い。きっと堀川くんの気配を察知して我慢したのだろう。いろいろと。
そうとう自制したのだと分かって火を灯されて放り出されたという苛立ちがあっさりと溜飲を下げた。
正直、まだズクリとした疼きは残っている。でも仕方ないのも分かっている。こんなところで仕掛けてきた光忠には、やっぱりムカつくけれど。
「ごはん、お櫃に移しますね!」
「うん、ありがとう堀川くん」
疼きとムカつきをなんとか収めようと深呼吸をしている間に進められる光忠と堀川くんの声を聞きながら、私も作業をしなくてはと振り向いた、その瞬間。
「夜、部屋に行くから」
「!!」
小さく、低く、光忠の唇が私の耳を掠めて、そんな一言を。
せっかく収まりかけていたお腹の奥底のジクジクとした疼きの再来に、そこが子を宿す器官であったことをつい思い出してしまった私は、一人酷い羞恥に襲われる。
「主、お味噌汁お願いしても良いかな?」
煽りに煽った上で器用に日常に帰る光忠を、私は睨みつける事しかできなかった。
最悪だ。きっと今日は仕事に身が入らなくて、長谷部に怒られる事だろう。
完