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とうらぶ小説短編まとめ

第2章 光忠と口吸い


光忠のキスは心臓に悪い。

「…ん……んっ…」
「ね、口、開けて?」

早朝。厨当番の私と光忠は作業台の前に並んで朝餉の支度をしていたはずなのに。
ご飯も炊けて、お味噌汁は美味しそうなお味噌とお出汁の香りを醸しながら保温の為にとろ火に掛けられている。
主菜となるブリはシンプルに塩焼きに。旬の食材だからこその調理法だと、光忠は笑っていたっけ。
小松菜は胡麻和え。葉物全般が苦手な子もいるからと味付けは少しだけ濃いめだ。そうやって心を砕く光忠の料理はいつでも好評で、朝餉はいつも比較的質素でありながらも残される事はほぼ無い。
今朝だってそんな美味しい朝餉を作る作業に没頭していたはずなのに、小鉢の厚揚げの煮物が後は煮込まれるだけという段階で突然、彼は隣に立つ私の唇に、その厚めの唇を重ねてきた。
はじめは、状況が分からずに混乱した。
次に、唇をただ重ねて、時折悪戯に私の下唇をふにふにと唇で挟む動きに力が抜けて。
今は、そのただ唇を重ねるだけの口付けに物足りなさを感じて焦れている。
唇を挟まれて、吸われて、でも粘膜の接触はまだ無いのに、もうどちらの唇かも分からないほどに熱く蕩けてしまいそうな口付け。
ぼーっとしてきた頭は酸素が不足してきた為か、欲望を誘発された為か。頭はぼんやりとしているのに、心臓は反比例してドキドキと過剰に仕事をし始めている。
本当に、心臓に悪い。
と、心の中で悪態をつきながら私は光忠の言うがままに口を開いた。
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