第12章 暗躍する者嫌う者
「…っ!なぜあんなところに奴がいる…」
舌打ちをした男は誰もいない廊下を一人で速足に突っ切っている。
(あの者がこの城にいるととんでもなく厄介だ。できることなら早く追い出さなければ…。)
男が追い出したいと思っている人物は、短期間で新兵からリョンヤン王子の専属護衛となった女である。
その時、笠を目深に被った男が廊下の角に断っているのが目にはいる。彼は男の間者だ。
「どうだった。」
「やはり、チュ家の血をひく者でした。簡単に辞めさせては後ろ楯が大きいので、内政を乱しかねません。」
「そうか、ご苦労だった。また何かわかったら伝えろ。」
「は。」
間者は一瞬のうちに姿を消す。そして男は少しの風圧を感じた。
(人がいないか確認して消えろと言ったのに…。まぁ、今回は誰もいなかったが。それにあいつの情報収集能力は稀なものだ。)
男は何事もなかったかのように歩きだした。
(自分の正体に奴は気づいていないのか。気づいていたらかなり厄介だ。)
男は彼女の赤い瞳を思いだし、忌々しいと言わんばかりに顔を歪めた。
(奴も一緒に追い出してしまえる手だてはないか…。どうせ追い出すなら一人も二人も一緒だ。)
男は既にある人物を城から追い出す手だてを考え始めていた。
(もし奴を殺せたなら一番楽だが、奴を手にかけることは無理だ。)
男は自身の手から腕にかけての火傷の後を見る。
(もしあの書さえ手に入れば、この国は俺の者なのに。)
男はもうすぐ人通りの多い廊下に出るので、顔を笑顔に、そして歩調はゆっくりと優雅に変えていく。
彼が暗躍していることは、まだ手下の者しか知らなかった。