第8章 武闘会
「今日はずいぶんと早起きだな。」
剣や体術の型を確かめていたハヨンに、リョンは声をかける。まだ、朝靄が出ていて、冬ももう終わりに近づいているのに、空気は冷え、澄みきっていた。
「あなたはまた女官と逢い引き?」
動きを止め、振り返ったハヨンは皮肉を投げた。
「酷いな、俺が朝早くに出歩いていたらあんたはそんなふうに考えるんだ?」
「だって第一印象がそうだったもの。」
うーん、正論。相変わらずきついなぁ。と言うリョンを尻目にハヨンは稽古を再開する。
「それで?俺の質問に答えてはくれないの?ハヨン。」
「…今日は武闘会があるのよ。」
「ふーん、もしかして他の隊と合同で行う大会のこと?それとも俺が出る幕がある方?」
出る幕がある、というのは舞踏会の方だろう。つまり宴で舞や演奏があるのかと聞いているようだ。
「残念ながら軍のほうよ。安心して、あんたの出る幕なんてこれっぽっちもないからっ!」
そう言うと共に空へ足を蹴りあげるハヨンの姿に、リョンは二、三歩後ずさった。
「今日はあんまり近づかない方が良さそうだね…。」
頑張って。と言葉と共に去っていくリョンを見送りながら、ハヨンは自分が焦っているのを感じていた。
(いつもリョンにはつらく当たってしまうけれど、今日は気がたってたからか余計に酷いことを言ってしまった気がする…。)
己の焦りのせいだと考えて、もっと余裕を持たねば呑まれてしまうと目を閉じる。
本番までに精神を統一することが最優先事項だった。