第7章 差し伸べられた手
「まさか、あなたお兄様に何も教えてもらってないのかしら。」
「はい。ですので、父が貴族の地位を捨てたにも関わらず、チュ家の名を名乗っていたことも、なぜ鍛冶職人になったのかも存じ上げないのです。」
ドゥナは、まさかお兄様がこんなに何も言ってないなんて…と呆然としていた。
しかし、気を取り直して彼女はハヨンに父の生い立ちを語りだした。
お兄様はね、昔は体が弱くて。元服を迎えるまで生きていられるかわからなかったのよ。
だから貴方のお祖父様とおばあ様はお兄様が好きなことをして過ごせるようにお兄様の決めたことは決して反対しなかった。
そして元服を迎える前に家を出て、鍛冶職人に奉公していたのね。
どうやら一度お父様と見に行った刀の修理の様子を見たのが、よっぽど衝撃的だったそうで、それで鍛冶職人を目指したのだそうよ。
でもお祖父様もおばあ様も完全にチュ家との関わりを絶つことに不安があったみたいで、チュ家の名は残すように頼んだらしいわ。
「私ね、生まれたばかりの貴方にあったことがあるわ。」
遠い昔を懐かしむような表情で、ドゥナは驚くようなことを言った。
「それはどういう…。」
「あなたが生まれた時に、お兄様とお姉様が一度だけチュ家の本家に来たのよ。二人はずいぶん幸せそうな顔をしていたわ。」
ハヨンの覚えていない父のことを話してくれる人がいるのは、この上なく嬉しいことだ。
「ハヨン、私はあなたに何かがあったら真っ先に味方になるわ。お兄様の娘ですもの。だから何かあったら遠慮なく相談してちょうだい。それに、また家に顔を出してくれると嬉しいわ。みんな大歓迎だからね。」
そう差し伸べられた手を「はい」と言って握ると、優しい温もりが広がった。