第5章 長の議の間で
「ふむ…。それは最も有効な手段かもしれませんな。本人の力を、どれ程のものか言葉を発すことなく伝えることができる。それならば波風立たず妙な噂も立たぬだろうしな。」
玄武の隊長、カム・ドユンが賛同した。
「う…。ならば彼女がわしら全員が見ても、強いとわかったら彼女を受け入れようではないか。もし、ヘウォン殿が誤った選択をしたという結論にいたったら…。」
チェソンが険しい表情を見せる。ハイルは思わず、手に力を入れた。
「即刻彼女を除名し、ヘウォン殿は責任をとって隊長をおりる。その条件つきでならわしはかまわん。」
昔ながらの考えが染み付いて離れないチェソンにしてはかなりの譲歩なのかもしれないが、ヘウォンにとってはあまりにも危険なかけのようにハイルは感じた。
思わず隣に座る彼の横顔を見るが、ヘウォンには全く恐れの色が無かった。むしろ自信に満ち溢れた顔でもある。
「私もそれで構いません。彼女を除名することとなれば、隊長の座をハイルに譲りましょう。」
(だんだんと話が大事になってきている…。)
基本面倒なことは上手くかわし、安全な道を選びながら生きていくことを理念としているハイルにとっては、この上なく迷惑なことであった。
「では、入隊後の彼女の扱いについてハイルと相談があるので私たちはここで。」
とヘウォンが椅子から立ち上がるのを見て、ハイルは慌てて会釈してそれにならった。
長の議の間を出てハイルは即座にヘウォンへと向き直る。
「ヘウォンさん。これでいいんですか?」
「もし彼女が除名されたら、俺がお前に隊長の座を譲る話か?」
「はい。俺には全く理解できません。なぜこの件であなたまで地位を失うような危険にさらされなければならないのか。」
ヘウォンは隊長であると同時に将軍でもあり、この地位に登り詰めるまでに、長い間苦労をしたはずだ。
責任をとって隊長の座をおりれば、将軍としての地位を失う確率も高い。なぜそこまでして彼女を守りたいと思うのか、ハイルには不思議でならなかったのだ。