第4章 旅立ち
ようやく我が家が見えて、ハヨンはほっとした。
王都までの移動と、宿をとって一泊しただけなのにこんなにも家を懐かしく思うのはそれぐらい自分の家に愛着があるからだろう。
(これくらいで懐かしいとか思ってどうするの…。)
これから先、何ヵ月もこの家に帰ったり母に会うことができなくなると言うのに、とハヨンは自分に言い聞かせる。
家の戸に手をかけて開けようとすると、その前に勝手に戸が開いた。
「ヨウさん!?」
飛び出そうとしたヨウと思わずぶつかりそうになったハヨンは、すっとんきょうな声をあげる。
「おお、やっと帰ってきたか。」
どうやらハヨンの帰りを今か今かと待っていたようだった。ヨウは再び家の中へと入る。
「おかえり。ヨウさん、ずっとそわそわしてたわよ。」
くすくす笑いながら出迎えた母のチャンヒは、料理をしながら待っていたようだ。
「チャンヒさんは余裕過ぎる。いくらハヨンの実力があるとはいえ、前代未聞の女剣士だ。何を言われるのかわからんだろう。」
「その件ですが、無事合格しました。」
ハヨンにとっては二人ともが合格する前提で話してくれていたことが何よりも嬉しかった。
「そうか。良かったな。俺も厳しく教えた甲斐があったわ。あいつに言われたんだ。ヨウさんはハヨンを俺よりも厳しく教えてます。少し酷くはないですかってな。」
あいつとは、ヨウの一番弟子で、ハヨン以外に教えて貰った唯一の生徒だ。彼も同じく白虎で兵士をしており、また会うことがあるかもしれない。
「私は合格するためなら、血を吐いてでも練習しますよ。武道を始めるには遅い年ごろだったんですから、ちょうどいいくらいですよ。」
燐の国では、男は武道を習い始めるのは五歳の頃からという風習がある。五歳になれば、燐の国で伝統的な古武術を習うのが一般的だが、ハヨンは七つの頃からだった。