第21章 城を離れて向かうのは
「まず一つめは、ヨンホ王子があなたのことを気に入っているからです。」
「えっ。私を、ですか」
「はい。よく知った者が使者として訪れたら嬉しいとものですし、滓でも女性が後宮からではなく、役人等として働くことを検討してみたいとおっしゃっていましたし、あなたが訪問すればヨンホ王子が国で提案するときも例として挙げて通りやすくなると思うんです。」
ハヨンはその言葉を聞いて彼の頭の回転の速さに舌を巻く。なるほどハヨンを向かわせれば、ヨンホに貸しができると言うわけだ。
「二つ目はリョンヘ、いくらあなたが強くったって訪問先は他国です。何が起こるかわかりませんし、護衛がいないとはどう言うことかと滓の人達に問われてもどうしようも無いでしょう?」
「…。私は自分の身くらい守れる。でもまぁそうだな。リョンヤン、気遣いをありがとう。」
リョンヤンはにっこり笑ってハヨンの方へと向き直った。
「というわけなので、構いませんか?」
「はい。リョンヤン様の命とあらば何なりと。リョンヤン様のお顔に泥を塗らぬよう、精一杯使命を果たして参ります。」
正式な任務なので、ハヨンは跪き頭(こうべ)を垂れた。
その後は三人で滓の国での予定などを打合せ、リョンヘは先に退出した。
「ハヨン、実はまだ一つ頼みたい仕事があるのです。」
ハヨンはリョンヤンと共に滓への道やその道中での休憩所などを打ち合わせているときにそう思い詰めたような声で話しかけられたので、はじかれたように顔をあげた。
「どうか無事でリョンヘと共に帰ってきてください…。」
(なぜあなたはそんな顔をなさっているのですか…)
そのすがるような目と、固く結ばれた口元を見て、ハヨンはとても切ない気持ちが沸き起こった。
他国の訪問と言えど、敵国に入る訳ではない。なぜそのような一生の別れのような顔をするのだろう。なぜそのような感情が不意に現れたのか。きっとハヨンは本能で何か危険なことが起きつつあるのを自覚していたのだ。