第15章 宴にて交わされるのは杯か思惑か
(ついに始まってしまった…。)
ハヨンは食事に少し箸をつける程度にすることを心がけながら周囲を見渡す。
今のところ、何も怪しいところはなかった。しかしいつ誰がこっそりと王族の椀に毒を盛るかわからない。
ハヨンは杯を酌み交わすとき、何か不審なものは入れていないかとちらちらと様子を伺っていた。
(それにしても、また面倒なことが起こったな…。)
ハヨンは宴に出る前のことを思い出していた。
「ねぇ、ちょっと。」
あれは確かハヨンが宴のために用意した衣装を着て部屋から出たときだ。
ハヨンと同じ宿舎にいる女官の中でも、後宮に入れる人物といわれ、リョンヤン達の従兄にあたる王子に寵愛をうけている女官に呼び止められた。
「何?」
位も年もあまり変わらないので、ハヨンは何か言われても強気にいこうと決めて、やや硬い口調で返した。
「あんた、今日の宴に呼ばれているって本当?」
「そうだけど。」
「へーぇ。兵士になるなんて変な奴だと思っていたけど、結局あんたの目的も同じなのね。」
目的とはきっと、王族にとりいるとかそういうことだろう。
それにしても随分な言い様だ。
「ただの護衛として参加するだけなんだけど。随分ないい方じゃない。」
妬みからか、せっかくの綺麗な顔は歪んで醜かった。
「どうせそう言いながらいつかは玉座の横に座ることが目的なんでしょう?でもあんたみたいなどこの国の人間かもわからないようなやつ、リョンヤン様だって選ぶ訳がないわ。」
きっとそれはハヨンの目のことを言っていた。
「そう、私はそんなのどうでもいいのよ。私は王妃の立場なんて興味ないからね。まあ、あなたも精々頑張りなさいよ。」
そう言って立ち去ろうとしたが、これくらい言ってやらないと気がすまないと思い直し、
「あなたもその口の悪さを直さないと、後宮にすら入れないわよ?」
と人の悪い笑みを浮かべてハヨンは立ち去った。
(それにしてもさっきは柄にもないことをしちゃったなぁ。)
ハヨンはみなが騒いでいる宴の中で、一人で恥ずかしく思っていた。