第9章 奢られすぎると遠慮するけど奢って欲しいのは山々なんです
「ここなんかいいんじゃねェのか、なあ、ちか?」
「いいかもしれませんが...その、本当に申し訳ないっていうか、ここまで晋助さんにしてもらう義理はないというか...」
「アァ?これはおれの義理とかそういう話じゃねェよ。俺が勝手にやってるだけだ。せっかく気まぐれで俺がお前ェに家買ってやるってんだから大人しく従っとけ」
「......」
今晋助さんと私がいるのは不動産屋さん。これを読んでる人には何がなんだか分からないんだろう。だって私にも分からないんだから。
まあ、このことに関して欠片でも理解してもらうためには少し時間を巻き戻さなきゃいけない。
「美味しい、です...!」
「そうか、そりゃあ良かった」
食べる私を満足気に眺める晋助さん。今日もまた晋助さんは高級そうな料亭に連れてきてくれた。
奢ってくれたりしなくてもいいし、適当な所でお話出来るだけでもいいです、って言っているのにいつも高そうな所を選んでくる。有難いのは有難いけど。
私もお返ししたほうがいいよね。いつも世話になってるし。高そうな所は晋助さんほどの審美眼がないから無理だけど、手作りなら自信があるからいつか振まってみたい。今は屯所に居候中だから無理だけど。
「あの、晋助さん」
「あ?」
「いつになるか分からないんですけど、もし部屋が借りられたら、その、料理をご馳走したいんですが...」
「......」
何か言ってください晋助さん。固まったままで動かないと失礼な事を言ってしまったかと心配になる。
「いや、お前ェの手作りなんか食べたくねェよ、という事でしたら私ができる範囲でのところでご馳走しま━━━━」
「嫌じゃない」
「...は?」
「嫌じゃねェよ。お前ェの作った料理なら食いてェ」
予想していなかった晋助さんの真っ直ぐな言葉に、思わず顔に熱が集まっていく。やっぱりこの人はずるい。
「部屋が借りられてからか...。おい、飯食い終わったらちょっと着いてこい」
「...はい」
...このタイミングでこんなこと言い出すなんてなんか嫌な予感がする。
この時の私は、この予感が当たっていたなんて思いもしないだろう。