第8章 忍び寄る恐怖と出会い
「スペルタールにいた時は大変だったろうけど、案外仕事でも使えたでしょ?」
その仕事で体を使って嫉妬に狂ったのは誰だよっ、とつっこみたくなったが命の保証が心配なのでやめておいた。
「さて、僕の秘密を教えてあげたわけだし、次はお姉ちゃんの話を聞かせてよ」
「話すことなんてないよ。卒業してからはずっと仕事してたもの」
「…へー、そう。ならスペルタールでの話をしようか」
彼は微笑みながらそう言った、が私は席を立つ。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
どうしたもこうしたもない。
もう正直に言うが私はスペルタール卒だという事に誇りもありがたみも感じたことはない。
スペルタールにいた頃の私を知らない人たちの前では、感情を押し殺すのは余裕である。
ただ彼は違う。彼は小さい頃の私を1番近くで見ていた人物だ。
だからどうにも思い出されてしまう。
「コルトさんに朝ご飯を持って行かせて」
「僕が目の前にいるのに他の男の心配するの?」
「あなたが目の前にいるけど《仲間》が大事なの」
なんて屁理屈まがいのことを言ってみた。
「なんかお姉ちゃんつまらなくなったね。人間っぽくないお姉ちゃんが好きだったのに…」
「私は元から人間だし、それなりに罪悪感を覚えたのよ。きっと」
私がそう言うと彼も席を立ち上がり、立ち去り際に一言____。
「ご飯持ってていいよ。死なれても困るし」
そう言って自分の部屋に戻って行った。
そして私は2度目の朝食作りにかかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここに閉じ込められて長く経つ…はず。
なにせ窓もないから日の光もないから時間経過がわからなくて気が狂いそうだ。
そんななか誰かが階段を降りる音がして、警戒耐性を取る。
扉が開いた時、1番先に見えたのは長い黒髪だったのでアオメさんのようだ。
「アオメさん、大丈夫でしたか?」
この部屋を出て行った時より軽装になっているし、少しはだけている所から何かがあったことは察する。
「はい、コルトさんも大丈夫そうですね。彼は私が幼少期に共に過ごした人です。2日後には解放してくれるみたいですが、本当かどうかはちょっと…」
そう言いながら私の元に近寄ると、アオメさんのものではない誰かの匂いがした。