第4章 ONE
ー村上sideー
少し抑えた言い方やな。
亮にしては、大人な態度や。
けどな、めっちゃ効いてないで・・この人。
「これから大切な時期に入る事は重々承知ですよね。
ご理解下さい」
突然、楽屋にやって来た女。
新しいマネージャーだと名乗った女は、髪を1つに纏め、黒縁眼鏡を掛け、紺のパンツスーツ姿。
見るからに真面目そうな女やった。
地味やわ〜
見るからに地味や。
煌びやかなこの世界と無縁な女。
それが第一印象。
威圧するでもなく、静かに説得するでもない。
ただ、迷いなく放たれた言葉。
『やるならバレずにやりなさい。
それが出来ないのならば、アイドルを辞めるべきです』
その言葉は俺らを縛るのに充分な意味を成してたんや。
「くっ・・・」
まぁ、至極当然な事で亮はこれ以上噛み付けん。
ギリギリと唇を噛み締めていた。
「・・チッ」
「亮ちゃん!?」
短く舌打ちしたかと思ったら、亮はそのまま楽屋を飛び出して行く。
慌てて止めようと声を掛けたマルを亮は振り切った。
「・・・ええのか?」
亮を目線で追うが何も声を掛けないこの人に、すばるが聞く。
その視線は鋭い。
「子供じゃないんだから収録までには戻るでしょう」
女にしては、高くも低くもない声色。
冷たくも聞こえる響きは、ピーンと張り詰めていて真っ直ぐ俺を貫いた。
淡々と話す内容に誰1人、声を出さない。
今まで俺らの楽屋でこんな静かなのは初めてだ。
「ーーー以上です。
・・村上さん、お手数ですが錦戸さんにもお伝え下さい」
お、俺?
他に適任はいないと言うが如く、一礼し楽屋を後にした。