第1章 "何もかもが"
木が...木が軋む音が聞こえる。
あと...エンジンの音?が微かに聞こえる。
油と鉄の匂いもする。
『...。』
手を地面に当ててみる。
これは...木?
少し湿っているような、ひんやりと冷たい。
ここはどこだろう。
というか私は何でここにいるんだろう。
名前は棚馬 命で、
歳は...出身地は...性別は...
さっぱり分からない。
そうぼんやり考えているとおかしなことに気がついた。
というか違和感。
『(声と目が)』
出せない、見えない。
この場所が暗いから見えなかったんじゃないのか。
『(困ったな...)』
近くで人の気配がするからきっと誰かの家だろう。
でも...この音といい匂いといい
すごく住みにくそう家だなあ。
ってそんなことよりも、この状況非常にまずい。
人の家だったら"不法侵入"とやらになる。
知らない人間がいたらきっとビックリするだろう。
しかも声も目も使えないから尚更危険だ。
慌ててその場から立ち去ろうと立ち上がった。
...のはいいが、目も見えないのだから歩けない。
『(...大人しく捕まるか。)』
また地面によろよろと座り込み
誰かに見つかるのを待っていることにした。
軽く10分が経過する頃、
足音が聞こえる。こちらに近づいてくる。
私の心臓も高鳴る。バクバクとうるさい。
「...暗いな、まだ誰も来てないのか?」