第10章 香りは導く
それなのに、
何故振り返らなかったのか。
振り返らないのなら、何故自分の声に反応したのか。
“答え”が欲しかった。
『必ず帰ってこい』そう言ったはずだ。
『また来るね』と約束したはずだ。
行方不明になって6年。
マルコの沙羅への想いはより強く、深いものになっていた。
元気にしてるだろうか?
泣いていないだろうか?
苦しんでいないだろうか?
離れてから感じる沙羅の存在感。
危険からは守っていたかもしれない。
だが嫌われる事に慣れてしまったマルコの心に、光を灯したのは沙羅だった。
歳三の死の責任を分かち合ってくれたのは沙羅だった。
嬉しい時も、苦しい時も、悲しい時も、楽しい時も、
どんな時も、
そばにいてくれたのは沙羅だった。
いつの間にか、海賊のマルコにとって、
沙羅は海のように常に共にいる存在となっていた。
元気でいるのなら一緒に、笑い合いたい。
泣いているのなら、その涙を拭ってやりたい。
苦しんでいるなら、共に乗り越えたい。
海を、沙羅を想わない日はなかった。
だが、どんなに想っても伝える“相手”が、
“沙羅”がいなければ、それは一方通行の苦しみや哀しみをもたらした。
どんなに考えても悩んでも、得られる答えも、答える声もなかった。
だが・・・、
それならば“本人に”聞けばいい。
向こうが逃げるのなら、こちらは捕まえればいい。
躊躇う必要などない。
欲しい“者”は手に入れる。
それが、海賊だ。
“俺は海賊だ”
マルコの頭が急激に冷静さを取り戻す。
自分がそうであるように、沙羅もまた“トシ”と言う名を忘れられないのだろう。
好奇心旺盛で、心配性で、優しい沙羅はきっと、宴が無事に行われるか確認しに来るに違いない。
「・・・」
マルコはニヤリと海賊らしい笑みを浮かべた。
その笑みを見たサッチやジョズもまた、マルコが何をしようとしているか気づき、にやりと笑った。
「決まったみてぇだな」
「あぁ、逃がさねぇよい」
その言葉にイゾウは“くつくつ”と笑い、サッチは顔を引き攣らせ、ジョズは苦笑いした。