第3章 Kagero
【智side】
良心が痛まないのかと問われれば。
別にそんなことはない。
付き合うことになって最初の夜、俺に触れようとしたニノに、実は翔くんとは付き合ってはいないけど身体の関係だけはあって、今後もそれを解消するつもりはないと宣言した時のあいつの顔を、忘れることはないだろう。
驚愕に見開かれた瞳。
何か言いたげに開いて、でもすぐに閉じられた唇。
白くなるほどに握りしめられた、拳。
酷いことをしていると、自分でもわかっている。
それでも、これが俺で。
途中でわかって傷つけるくらいなら、最初に話しておいた方がいいと思っただけだ。
どこかで、期待していたのかもしれない。
だったらもういいやって、彼の方からそう言ってくれるのを。
だけど、ニノはそれでもいいって、それを受け入れて。
でも、今まで通り側に座っていても、じっと俺の気配をうかがってるのを感じる。
話しかけたいけど、誘いたいけど、どうしていいのかわかんない。
そんな感じ。
そんな風に恋人に気を遣わせて、最低だよなって自分でもそう思うけど。
仕方がない。
それほど……月曜日は、俺にとってはなくてはならない時間なんだ。
「おまたせ~」
途中スーパーで買ってきた総菜を、律儀に皿に移してテーブルに並べて。
冷蔵庫からビールを持ってきたニノが、一本を俺に渡して、ちょこんと隣に座った。
「じゃ、かんぱーい!」
缶のまま、それを合わせて。
一気に半分ほど飲み干した。
「あー、うめえ!」
「ふふっ、大野さん、おっさんみたい」
隙間なくぴったりとくっついて、見たことないくらい楽しそうな顔で、見つめてきて。
胸が、チクリと痛んだ。
思わず、その右手を掴んでしまう。
「……大野、さん……」
驚いたように目を見開いて。
それから、本当に嬉しそうに笑った。
すごく……綺麗だった。
手を繋いだまま、俺たちはその日の収録のことや、明日の互いのロケの話なんかをした。
ニノの手は、しっとりと汗で湿っていて。
それが、彼の心の中を素直に伝えてくれて。
思わず笑みが零れた。
ニノといると、心が穏やかになる。
「……大野さん……」
話が途切れた時、恐々といった感じで、声を掛けられて。
「……触っても…いい……?」
子犬みたいなつぶらな瞳でそう言うから。
俺は黙って、瞳を閉じた。