第14章 イチオクノホシ
【智side】
「あっという間だったね〜」
ハワイでの最後の朝食を食べ終わり、荷物を片付ける翔くんの背中を見ながら、ベッドにごろんと横になった。
腹が一杯で手持ち無沙汰だった俺は、そのままうとうとと微睡んでいて…。
柔らかいものが唇に当たる感触に、目が覚めた。
目の前には、面白そうに細められた、翔くんの瞳。
「あ、起きた」
そう言って離れようとするから、素早くその首を捕まえて、濃厚なちゅーをお見舞いしてやった。
「ねぇ…もっかいしたい」
「だーめ。もう飛行機の時間だし」
「ケチ」
「ケチじゃねーよ」
クスクス笑いながら、俺の手を引いて起き上がらせてくれる。
「そうだ。写真撮ろっか、記念に」
そのまま手を引かれてテラスに出て。
青い海と青い空をバックに、並んで顔を寄せた。
「せーの!」
一枚目は、普通に笑顔で。
二枚目は、なぜか二人とも変顔して。
「やっぱ、智くんのクオリティ、半端ねーな」
撮れた写真を見ながら、翔くんが感心したように呟く。
あ、いいこと思い付いた。
「ねぇ、キスしてるとこ、撮りたい」
俺の提案に、翔くんはだいぶ長いこと考えていたけど。
渋々了解してくれた。
「じゃあ…」
ちょっと緊張した面持ちでカメラを翳す翔くんの首に手を回して、目を閉じる。
遠慮がちにそっと触れてきた唇をぐっと引き寄せて、舌を捩じ込んだ瞬間、シャッターの音がした。
「ちょっと、今のはさ!」
慌てて俺から離れた翔くんの手からカメラを取り上げて、画像を確認すると。
「…うわ、エロい…」
覗き込んだ翔くんが真っ赤になった。
「いや、これはマズイでしょ!」
「えー、いいじゃん。俺、携帯の待ち受けにしたい」
「なに言ってんの、あなた!ダメに決まってんでしょ!あ、ほら!飛行機乗り遅れるから、もう行くよ!」
カメラを荷物に突っ込んで、翔くんが先に部屋を出ていく。
その背中を追いかけようとして、もう一度振り向いた俺の目に飛び込んできたハワイの青。
一生、忘れられない色だな。
「どうしたの?忘れ物?」
「いや…」
立ち止まった翔くんを今度こそ追いかけて、その手に指を絡める。
「ありがとう、連れてきてくれて。最高の思い出だよ。ここで見た景色、一生忘れない」
翔くんは嬉しそうに微笑んで。
そっと頬にキスしてくれた。