第7章 maboroshi
【智side】
相葉ちゃんと松潤が慌てたように楽屋を出ていって。
ニノと二人、特にこの後仕事も入ってなかったからノンビリと帰り支度をしていた。
ふと見上げると、窓の外は綺麗な夕焼け空。
俺は吸い寄せられるように窓へ張り付いて、そのオレンジ色の空を見上げる。
翔くんも、この空を見てるかなぁ…?
君は今、なにを思ってるの?
見上げた空に、君の優しく微笑む顔が幻のように浮かんで。
胸が苦しくなって、目を伏せた。
もう棄てようって、そう決心したはずなのに。
何処にいても、何をしていても、心はいつも君の元へと飛んでいく。
苦しい……。
息が、出来なくなる………。
「…大野さん…」
ニノの声が耳元で聞こえて。
次の瞬間、後ろからぎゅっと抱き締められた。
「ちょっと、ここ、楽屋…」
「大丈夫。鍵、閉めてきた」
そう言いながら、腕に力を込めて。
俺は身動ぎせずに、それを受け入れる。
「翔ちゃん、退院だって。良かったね?」
「うん…」
「…お見舞い、行かなくてよかったの?」
「うん…」
何を言われても、うんとしか言えない俺をくるりと腕の中で向きを変えさせて、ニノは真正面からじっと見つめてくる。
殆ど変わらない、視線の高さ。
翔くんだったら、もっと……。
「なに、考えてんの?」
「…別に…」
「…ね?キスしても、いい?」
「…うん…」
俺は目を閉じる。
ニノの唇は、遠慮がちにそっと触れて、すぐに離れていった。
目を開けると、すぐそこにニノの瞳があって。
俺の心の中を探るように見つめている。
「…今、俺のこと考えてる?」
「…考えてるよ」
「翔ちゃんじゃなくて?」
「うん…」
頷くと、ニノが目を閉じるから。
俺ももう一度閉じると、今度は深く唇が重なった。
「…ん……ふっ……んっ…」
声が漏れると、ニノの腕がもっと強く引き寄せてきて。
ピッタリと身体を隙間なく合わせて、俺たちは舌を絡め合った。
「ねえ…今日、うちにおいでよ」
長いキスの後、その肩に顔を埋めた俺の耳元で、ニノの甘い声が響く。
「うん…」
「今日だけじゃなくて…毎日、うちに来なよ?ずっと、一緒にいよ?俺の側にいて、俺のことだけ考えてて?お願いだから…」
ニノの声は、微かに震えてるような気がした。
「……うん……」
俺は、瞼の裏に浮かぶ翔くんの幻を見つめながら、頷いた。