第11章 風邪。
長谷部『……っ、は。』
彼の吐息と共に唇が離れた。
肩で息をしていると
へし切様の嘲笑う声がした。
長谷部『さっさと起きろ…
起きているのはわかっている。』
バレてた。
やり過ごせると思ったが
考えはそう簡単じゃなかった。
渋々と瞼を上げると
無表情なへし切様が見下ろす。
『………これから寝ますので
お引き取り願いたいのですが』
長谷部『俺が主でもないお前の
その言葉に従うと思うのか?』
散々な言われようである…
なら何しに来たのだろうと
問いかけようとすると私の腕を
彼の両手で抑えられた。
『な、にを…。』
長谷部『貴女はこの本丸には
要らない存在という事だ。』
『いら…ない、ですか…。』
ズキン…と突きつけられた
彼の言葉に胸が痛む。
全員に迎えてもらおうなんて
思ってないけど真正面から直に
言われると…つらいものがある…
『だから…なん、です?』
さっきのキス…だって…
長谷部『居られさせなくしてやろう』
その言葉の瞬間、へし切様の
顔が近付いて私の首筋に歯を立てた。
ガリッ…
『痛ぃ゙…ゃだ…へし切様…、』
肌に歯が突き刺さり
ジクジクと痛みに襲われる。
噛みちぎろうとしているのか
なかなかその歯を離さない。
『へし…きりさ、ま゙…。』
腕でもがこうとすれば
彼の手にも力がこもる…
男と女の差はどうしても
うめることは出来ない。
首の痛みが続く中でぬる…っと
彼の舌が傷口を舐めた。
『ぃ゙…ぁ…。』
ビリビリした痛みに彼の
熱い舌が這い背筋が強ばる。
舌が這う度にぞくぞくして
体が嘘をつけず反応する。
長谷部『お前のような…子供が…
あの方に適う訳がないだろう…
女であるお前が俺にさえ
抵抗できぬと言うのに…!!』
腕を縛る彼の手は
怒りで力が増してゆく、
締め付けられた痛み
傷口が痛む首筋…。
彼は何かを伝えたいのだろうか。
『へし切…様…?』
涙声で彼の名を呼べば
悲しげな表情で笑った。
その笑みは最早全てを
諦めたような笑い方だった。
長谷部『俺は…俺は…。』