第23章 自我。
山姥切『それ以上…言うなっ』
俯いて表現しきれない
溢れ出る感情に震える体を
私はそっと抱き締めた。
どちらが幸せなのでしょう。
『山姥切国広
第一の傑作と称えられた貴方と、
政府の駒として使われる私と…、
親として幸せになれる子は
どちらだと思いますか…山姥切様…』
彼は私の背中に手を回して
ぎゅっ…と力を込めて抱き締めた。
触れ合う肌が温かくて…
山姥切『…そ、れは…っ』
言葉に詰まる彼に続いて綴る。
『自分次第…なんですよ、ね。
貴方も…私も…みーんなそう…。
終わり良ければ全てよし!』
山姥切『お気楽だな…お前は…。』
なんだか失礼な事を言われた…。
私は首に腕を巻き付けて
ぎゅうぎゅうと抱き着いた。
仕返しとばかりにくっつくも
彼はただ受け入れてくれた。
山姥切『俺はお前のようにはなれん』
『……………はい。』
山姥切『俺は俺の生まれを…
簡単には納得も出来ない…。』
こく…と首を縦に振った。
山姥切『だが、刀として誇りは…ある』
『…っ!』
山姥切『お前に同情した訳では無い。
俺は俺らしく闘うだけだ…っ。』
私に被せた白い布を彼は
背中の方で握りしめている。
山姥切『写しとしても…
山姥切国広としても…俺は、俺だ。』
宿る瞳に光の灯火が宿り始める
見えないけれど声が語る、彼は
きっと…もう大丈夫だと…。
『山姥切様…。』
山姥切『俺に…変わりはない…っ。』
私の肩に額を押し付ける彼の
頭をゆっくりと撫でた。
指に絡む彼の黄金に輝く髪を
指に通して彼を感じるように
ゆっくり…ゆっくりと、
『私も…向き合ってみます…。』
見つけてしまった敵意を持つ刀剣と
『守る為に闘います。』
山姥切『いざとなれば…、
協力しない…訳でも、ない。』
ぼそ…と呟かれた言葉に
私は喜びで勢いよくすり寄った。
慌てた彼に微笑みながら
心に宿す影を隠した。
(貴方はどう思いますか…
貴方の兄弟が裏切ると知ったら。)
これは私だけの秘密…。
彼らしい生き方を見つけてほしい
そう願いを込めて貴方に微笑む。
『おかえりなさい…山姥切国広。』
緩む唇、嬉しさを噛み締めた表情。
今の彼は何よりも美しい…。