第47章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 信長END
「ここを…こう折るのか?」
「そうですそうです…信長様って器用なんですね」
「このくらい当然だ」
小さな文机に身を寄せ合い、二人で千代紙を折る。
舞は細く小さな白い手を器用に動かし、時々笑みをこちらに向けながら、七夕飾りの折り方を教えてくる。
(ああ、たわいないが、愛らしいな)
そんな自分でも信じられない、甘い感情が心に湧き上がって……
思わず、小さく苦笑すると、舞がこれまた可愛らしく首を傾げた。
安土城広間にて、舞を賭けた争奪戦が繰り広げられたが。
舞は想像した通り、この織田信長の用意した浴衣を着て広間に現れた。
黒地に赤と金で金魚が描かれた、その浴衣。
それを身にまとった舞を見た時、己が用意した浴衣を選んできたのは、当然だと思った。
『舞は織田信長のもの』
それをしっかり解っているようだと。
その事実をわきまえている事が、当たり前だと思ったのに……
───お互い、気持ちが通じ合っていたと言う事
それが解った瞬間、情けないくらい心が浮き足立った。
舞の事を、愛している。
それは変えられない現実で。
舞には己の所有物以上の感情を抱いていたのは、抗えない事実だった。
その想いを、舞は受け入れたのだと。
浴衣を着てきた事は、それを示唆していた。
戦乱の世。
人を殺し、それを背負って心を殺し……
人の屍の上に立っていた、冷たいこの身が。
温かな人の情に触れたと──………
情けないくらいの心地良さを感じたのも、また抗えない事実だった。
「の、信長様…支えていなくても大丈夫ですよ?」
「貴様が欄干から落ちたら敵わん、早く飾れ」
「わ…解りましたから、くすぐらないでくださいね?」
「解っている、少しは信用しろ、舞」
天主の欄干に括り付けた、小さな笹。
そこに、舞が作ったばかりの七夕飾りを飾っていく。
菱飾り、紙衣、吹き流しに、提灯……
舞と一緒に作った色とりどりの七夕飾り。
それらは、なんの味気もない笹を、彩り豊かに染め上げていく。