第43章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 家康END
(舞…遅いな…………)
家康は『その瞬間』に希望を抱いて。
まだかまだかと、待ち侘びていた。
舞のために、慣れないながらも女物の浴衣を用意した。
舞が好きだと気がついてからも──……
天の邪鬼な性格は相変わらずで、舞に対してつっけんどんな態度を取り続けていた。
だから……選ばれる可能性は低いだろうけれど。
(あれ、佐助が居ないな)
武将達が、未だにやいやいやる広間に、ある人物が居ない事に気がつく。
正直、刀を今にも抜きそうな謙信をほっといて、居なくなってほしくないんだが……
そんな事を頭でふつふつと考えていると。
「家康さん」
「わ……」
突然背後から名前を呼ばれ、変な声が出る。
びっくりして振り返ると、今居ないと思ったばかりの佐助が、背後にぬぼっと立っていた。
こうも簡単に背後を取られるなんて……
そう思いながら一言文句を言ってやろうと口を開いた。
「何、いきなりびっくりするだろ」
「家康さん、舞さんが呼んでます」
「……は?」
佐助の口から『舞』と言う単語が出た事にびっくりして、思わず眉を顰める。
すると、佐助は何かひそひそ話をするような小さな声で、自分だけに聞こえるように続けた。
「広間に戻るとうるさいから、家康さんだけ呼んできてと彼女が。今様子を見に行ったら言伝てられたので」
「勝手に城の中を歩かないでくれる、佐助」
「問題はそこではないですよ、家康さん。家康さんだけを呼んできてって事は、つまり……」
佐助の一言に、ドクンと心臓が高鳴る。
舞が自分だけを呼んでる、それはつまり。
(舞は、俺を選んで──………?)
佐助に『すぐ行く』とだけ言い、他の武将達に気づかれないように、こっそり広間を抜け出す。
後のことは…まぁ、佐助がなんとかするだろう。
足早に舞の部屋に向かいながら……
生きてきた中で、感じた事のない緊張感を感じ、頬が熱くなるのが解った。
そして、痛いくらいに心臓は鼓動を打ち。
『まさか』と『なんで』ばかりを頭で繰り返しながら。
馬鹿みたいに浮き足立ったのも、事実だった。