第42章 満天恋月 ー 織姫争奪戦 ー / 秀吉END
「お…お待たせしましたっ……」
その可愛く小さな声に反応し、騒いでいた武将達は一気に静まり返った。
そして襖の向こうから姿を見せた舞に、視線が集中し釘付けになる。
舞は若草色の浴衣を着ていた。
若草色に、薄桃色と白の朝顔柄の浴衣。
それは間違いなく、秀吉が用意した浴衣だった。
舞はほんのり頬を染め、恥ずかしそうに俯いている。
その姿がなんとも愛らしく、また浴衣も舞の雰囲気にとてもよく似合っていた。
(舞……俺の浴衣を……)
心臓が早鐘を打ち始めたのを感じ、思わず声が出なくなる。
思わず食い入るように舞を見つめていると……
やれやれと言った様子で政宗がため息をついた。
「なんだ……秀吉の勝ちかよ」
それに継ぎ、武将達が次々とため息をつく。
そして、口々に各々の本音を漏らした。
「兄貴が恋仲に昇格した訳だな、全く残念だ」
「秀吉…家臣の分際で俺の持ち物の心を奪うとは……」
「さすが秀吉様です!でも、残念だなぁ……」
「ま、妥当と言えば妥当ですよね」
「やれやれ、とんだ茶番だな」
「つまりは、舞さんの好きな人は秀吉さんなんだね」
佐助の一言に、舞はますます頬を染める。
そして、舞は秀吉の前まで、そっと歩いてくると……
秀吉の着物の袂(たもと)を、きゅっと握った。
「そ、そうだよ…私は、秀吉さんが、すき……」
そう放った、一言の破壊力は凄まじく。
心はまんまと鷲掴みにされた。
秀吉はその袂を掴む手を、そっと取り……
そして、その甲にちゅっ…と口づけた。
「ありがとな、舞。俺もお前が好きだ」
「秀吉さん……」
「浴衣、すごいよく似合うよ。お前はやっぱり可愛いな」
「……っ、あ…ありがとう」
「ほら…もっと傍に寄れ」
「秀吉さん、みんなが見てるから……」
何やら二人の間に、桃色の空気が流れ始める。
それを察し、政宗なんかは『くそーっ、見せつけんな!』とかなんとか叫んでいたが……
すでに二人の間に割って入れる訳もなく、武将達は静々と広間を後にした。
織姫争奪戦。
秀吉の勝利を持って、幕を閉じた。