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【イケメン戦国】燃ゆる華恋の乱

第39章 ベイビー*ロマンチカ / 豊臣秀吉




二人で走るうちに、晴れていた空はだんだんと鉛色をしてきて。
雨も本降りになり、城下外れの一軒の宿屋に着いた時には、二人ともずぶ濡れになっていた。

宿の主人に浴衣を借り、舞をすぐに湯浴みに行かせ……

秀吉もまた、借りた浴衣に着替えて、部屋に濡れた羽織や袴を吊るす。





(舞、なんであんなに不機嫌だったんだ?)





花冠を作っていた時は、あんなにニコニコしていたのに。

理由が解らず悶々としていると。
部屋の襖がそっと開いて、浴衣に着替えた舞が帰ってきた。

秀吉は舞に近寄り、肩に手を置いて顔を覗き込む。



「大丈夫か?寒くないか?」
「……」
「随分降ってきたから……とりあえず着物が乾くまでは、このままだな」
「……」
「おい、なんで何も言わないんだ?」



ダンマリを決め込む舞に、思わず苛立って問いかける。
それでも何も言わないので、顎に手を掛け、俯いた顔を上に向かせると。




「舞……?」




舞は今にも泣きそうに目を潤ませ、唇を噛み締めていた。





「どうし……」
「秀吉さんにとっては、ただの戯れの言葉なの?」



秀吉の言葉を遮り、舞がようやく口を開いた。
しかし、何の話か解らず、思わず顔をしかめる。



「何言って……」
「結婚、してくださいって」
「え?」
「なーんてな……で、済んじゃうんだ」



(あ…………)



先ほどの文献の真似事で言った、求婚の言葉。
少し冗談めいた言い方が気に食わなかったのか。

思わず黙ってしまうと、舞は震えた声で続ける。



「私は…私はその言葉をずっと待っているのに、秀吉さんから言われるのを、ずっと……」
「舞……」
「私は『はい』って答えたかった、でも…なーんてな、とか言うから……秀吉さんにとっては軽い言葉だったんだなって思って、ちょっと悲しかった」



さっきの舞の表情を思い出す。
あれは呆気に取られたとかじゃなく……

きっと焦がれるほど待ちわびた言葉に対して。
真剣に答えようとしてくれていたのだと。




今、ようやく気づく。




きっと舞にとっては……
真似事や、軽はずみでは言ってほしくない言葉だったのだ。



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