第36章 琥珀が結んだ熱と君 / 徳川家康
寝込んだ家康は、やたらと素直に甘えてきた。
舞も内心は嬉しく、傍に居られる事が本当に嬉しかった。
結局一口では終わらず、すっからかんになるまで粥を食べさせた後。
茶をすする家康の横で、舞は何かを思い出したように言った。
「あ、家康。片付けてて見つけたんだけど……」
「何を?」
「これ」
舞の手から差し出されたそれを見た途端。
家康は盛大に茶をむせた。
舞に背中をさすられ、改めて横目でそれを見る。
『前略 愛する舞様』
そんな書き出しから始まる文の数々。
それは、間違いなく自分が舞へ書いた恋文だった。
しかも、練習して何回も捨てたやつ……
舞が目をキラキラさせて言葉を待っているので、家康はちょっと不機嫌に言った。
「あー…それは……文を書いたから、舞に」
「私、貰ってないよ?」
「ワサビの人形と一緒に渡そうと思っていたんだけど……書き上がらなかったんだ」
結局、人形を縫うより頑張った恋文は、上手くいかずに書けないままになっていた。
心の中に舞を想う気持ちは溢れているのに、どうして上手く文章にならないんだろう。
思った事をそのまま書けない、自分の性格が嫌になる。
すると舞は、少し考えるように唸り、何かを思い立ったように、家康の顔を見た。
「じゃあ、文に書こうとしていた事、今言葉で言って」
「何それ、なんで……」
「お願い、聞きたい」
(なんでそんな可愛い顔でねだるんだ、この子は)
家康は降参といった様子で……
一回後ろ頭を搔き、両腕を広げた。
「舞には負けた……おいで」
「うんっ」
懐に入ってきた愛しい恋人を胸に抱き、家康は頬を染めて口を開いた。
「一回しか言わないからよく聞いてよ。 前略、愛する舞様……」
伝えたら、舞は涙するだろうか。
そんな思いを胸に馳せながら。
家康は甘い甘い言葉を紡ぎ始めたのだった。
終