第36章 琥珀が結んだ熱と君 / 徳川家康
舞が作った昼餉は、とても美味しかった。
丁度二人の好みにあった味付けで、素朴だけど優しい味。
それは、舞自身のようだ。
あまり食欲は無かったけれど、自然と箸が進み、気がつけば御前を平らげていた。
「美味しかった、ありがとう」
「いえいえ、お粗末様でした」
茶の入った湯呑みを舞から受け取る。
二人して満腹になった所で、家康は話を切り出した。
「俺達が恋仲になって、もう一年だね」
「うん……早いね」
「舞には感謝してる、舞に出会ってなければ、こんな人を想う気持ちも知らなかった」
「家康……」
家康は文机の引き出しから、舞への贈り物を取り出す。
そして、思い切って舞の目の前に置いた。
「貰って」
「家康、これ……っ」
それは、鮮やかな黄色の布で作られた、不格好な人形だった。
ところどころから糸が出ているし……
でも、この形は。
舞は確信を持って、家康に尋ねた。
「これ、ワサビだよね……?」
「……うん」
「もしかして、家康が作ったの?」
家康は少し押し黙り…不機嫌そうに答えた。
「案外、作るの難しいんだね。 舞がどれだけ手が器用なのかがよく解った」
「家康……」
「前に、あんたが俺に作ってくれたでしょ。俺を守ってくれるように」
「うん」
「だから、今度はあんたを守ってくれるように、寂しくならないように」
以前、舞がお守りにと作ってくれた、あの鹿の人形とは似ても似つかない。
あんなに上手くは出来なかったけど、気持ちだけは、たくさん込めた。
「いらないなら、いい」
「ううん、いる!」
舞の瞳に涙がみるみる溜まっていく。
溢れ落ちる前に、家康は指でそっと舞の目尻を撫でた。
「俺の傍に居てくれて、ありがとう。いろいろあったけど、これからも一緒にいたい……いいよね」
「家康……」
舞は泣き笑いで、花のように微笑む。
そう、この笑顔が見たかった。
この笑顔に、いつも救われていた。
(俺だけが、守ってやりたい)
おもむろに家康は舞の腕を引き、そのまま胸に舞を抱きすくめた。
この小さな身体が、何故こんなに愛しいのだろう。