第36章 琥珀が結んだ熱と君 / 徳川家康
(……なんか、頭痛いな……)
朝早く、御殿の廊下を歩きながら、家康は痛そうに頭を押さえた。
最近仕事が忙しく、あまり寝ていないからか。
それとも、風邪でも引いたか。
なんか喉も痛いし、身体は変に怠い。
(疲れてるだけだ、きっと)
体調が悪いのを見ないフリををし、庭まで来る。
すると、少し離れた所で子鹿のワサビにエサをやる、愛しい恋人の姿があった。
「ワサビ、リンゴ美味しい? 人参と小松菜もあるよ、やっぱり果物のがワサビは好きなのかな」
必死にリンゴを食べるワサビに、舞は撫でながら、ひっきりなしに話しかけている。
その光景が微笑ましくて、思わず口元が緩んだ。
「最近、ワサビのご主人様あんまり見ないね、忙しいんだろうね」
舞の口から自分の話題が出て、思わず近づく足が止まる。
舞はしゃがんでワサビと視線を合わせながら、頭を優しく撫でた。
「お仕事だから……寂しいとか言っちゃ駄目だよね。 ワサビも寂しいだろうけど我慢だよ。 ワサビのご主人様は頑張り屋で、痛くても痛いって言わないから、私心配なの。 だから、なお我儘は言えないよね、うん」
(舞……)
思わず、心が疼いた。
舞と恋仲になって、しばらく経つ。
意地っ張りで天の邪鬼な自分を、縁の下から支えてくれているのは、良く解っていた。
それ故に、きっと我慢している事も、たくさんあるのだろう。
(なんか、すごく甘やかしたい)
家康は足音を立てないように、そっと足を進め……
舞の真後ろに来ると、家康もしゃがみこむ。
そのまま両手で舞の目を塞いだ。
途端に、舞の身体がぴくっと跳ね上がる。
「誰でしょう」
「い、家康……?」
「当たり」
舞が姿を確認しようと後ろを向いた瞬間。
家康は頬に手を当て、舞の唇を塞いだ。
「ん…っんん……っ」
舞は目を丸くさせてびっくりしていたようだったが、ちゅっちゅっと音を立ててついばんでやると。
次第に舞は顔を蕩けさせて、絡めた舌に答えてきた。