第33章 厳禁!溺れた君に快楽を / 伊達政宗
*オマケ*
慰安旅行からの帰り道。
政宗は割りかし上機嫌だった。
旅行中、幾度となく舞と情事を交わした。
もちろん、隠れてこっそりとだったけれど……
政宗には充分だった、むしろ。
見つかってはいけないという状況が、さらに政宗を駆り立てた。
「政宗」
一人馬を走らせていると、信長が近づいてきた。
政宗にぴったり馬を寄せ、並走させる。
「慰安旅行は楽しかったか?」
「まぁ、それなりに」
顔に上機嫌を映さないように答えると、信長はふっと笑い、さも見透かしたように言った。
「舞と秘密に情事を交わせば愉しかろう」
思わず落馬しそうになって体制を立て直す。
『なんで知ってるんだ』と視線を向けると、呆れた答えが返ってきた。
「……多分、気づいてないのは、秀吉と三成くらいだが」
「え」
「特に初日の夜、あれだけ畳を軋ませていれば、嫌でも気づく。あの音が苦手だから、政宗に俺から言ってくれと言って来たのは家康だ。 光秀もあの性格だからとっくに気づいているだろう」
口が開いたまま塞がらない。
政宗は小さく、ちっと舌打ちすると、バツの悪そうに額を手で押さえた。
「秀吉も言っていただろう、別に伽をするなとは言っておらん。 特に舞は寂しがりだからな。 ただ己の快楽に溺れず、思い遣りを持てと言っている。 猿は、やり方が悪いだけだ」
「……」
押し黙った政宗に、信長は淡々と続けた。
「貴様の男気を俺は買っている。 舞が居る事で、仕事の能率が上がっている事も。なら尚のこと舞は大事にしろ、あやつを只の天下取りの験担ぎにするな。まぁ、早く子でも見せてくれ、伊達の血筋を」
そう残し、信長は馬を走らせて行った。
全てお見通しらしい、さすが信長だ。
『あいつを幸せに出来るのは、伊達政宗だけだ』
そう言って信長の元から奪った。
天下取りの道具でしかない舞を、一人の女として幸せにすると。
(やれねぇようじゃ、伊達の名が廃るな)
前を、三成と共に走る舞を見つめる。
政宗はほろ苦く微笑んだ。
(見ていて下さい、奥州も舞も、俺が守る)
最後に少しだけほろ苦さが残った慰安旅行。
心の片隅に、討った父の顔が浮かんだのは秘密。
終