第32章 弥生月の願い鶴 / 豊臣秀吉
次第に舞の瞳には涙が溜まり、声が震えてきた。
しかし、一生懸命読むので、秀吉は抱きしめたいのをぐっと堪えた。
『私は貴方に感謝の気持ちでいっぱいです。
貴方と出会えた事、愛してもらった事。
それは言いきれない程です。
でも、私達はきっとこれからも一緒です。
だから、一生かけて、貴方に伝えて行こうと思います。
貴方の大好きな、『あ』から始まる言葉で。
秀吉さん。
愛してくれて、ありがとう。
愛されてくれて、ありがとう。
生まれてきてくれて、ありがとう。
これからも一緒に居ましょうね。
毎年、お誕生日のお祝いをさせてくださいね。
ずっと、豊臣秀吉さんを愛しています』
「……舞より」
舞はそこで、ようやく顔を挙げた。
泣き笑いで微笑み、指で涙を拭っている。
「なんか泣けてきちゃった、ごめんなさい。 でも、ちゃんと読めて良かった」
「…………」
「秀吉さん……?わっ」
(お前って奴は……)
秀吉は何も言わず、舞を強く抱きしめた。
全身で舞の体温を感じたら、出ない言葉が嗚咽となって溢れ出した。
この想いを伝える言葉が見つからない。
ただ、愛しくて。
舞が愛しくて愛しくて、堪らない。
「舞、お前……」
暫しの沈黙の後。
秀吉がようやく掠れた声を出した。
「俺をこんな気持ちにさせといて……覚悟は出来てるんだろうな」
「え?」
秀吉の顔を見ると、瞳が涙で潤み、抗えない熱に揺れていた。
手が頬に触れる。
その手は熱く、微かに震えていた。
「ありがとう、気持ち受け取った」
「秀吉さん……」
「だから、今日はもう、お前を褥から出さない。 嫌って言っても、出さないからな」
「……っ」
「御膳も嬉しいけど、後だ。 今すぐお前を抱きたい、今すぐ」
直接的に想いを告げられ、舞は真っ赤になりながら、小さく頷く。
それを見た秀吉は、舞を軽々抱き上げ、奥に敷いてある褥へと運んだ。
「舞……」
舞をゆっくり寝かしつけ、上に覆いかぶさり、見つめ合う。
舞の瞳も、期待に満ちたようにキラキラ光り……
吸い込まれそうな程だった。