第30章 純恋花〜君に狂った花になる〜 / 豊臣秀吉
最近の俺は、ちょっとおかしいと思う。
アイツがちゃんと飯を食えてるか、眠れてるか、笑っているか。
いつもいつも気になって。
それは、夢に見るほどで。
ただの世話焼きとかじゃなく。
すごくすごく甘やかしたくて……
『秀吉さん』
そう呼ばれるたびに、心臓が痛いほど高鳴り。
すごく、息苦しいほどに詰まる。
もう、好きとかじゃ足りない。
惚れて惚れて、惚れ抜いて。
愛しているから、アイツを。
だから、決めたんだ。
アイツは一生、俺が守るって。
「あ、秀吉さん、おはよう!」
朝から仕事があったため、安土城に行くと。
廊下を一人掃除する、舞にばったり出くわした。
花のような笑顔を向ける舞に、思わず顔がほころぶ。
「おはよう、舞」
(ああ、今日もいい笑顔だな)
近づいてきた舞の頭をいつものように、ぽんと撫でる。
すると、舞は気持ちよさそうに目を細め、少しはにかんだ表情をした。
(ああもう……可愛いな)
この小さな恋人が、可愛くて可愛くて仕方ない。
恋仲になって間も無い舞とは、一緒に住むことを許されていないどころか、まだ身体すら重ねた事は一回もなかった。
本当ならすぐにでも欲しい、けれど……
そんな余裕の無い自分が気恥しく、どうしても本音が言えずにいた。
「舞、今日午後は暇か?」
「どうして?」
「少し時間が空いたんだ、市でも行かないか」
嬉しそうな顔を浮かべて、『うんっ』と言うだろう。
そう思って期待していると……
舞は予想に反して、ちょっと残念そうに言った。
「ごめん、先約があるの」
「先約?」
「うん、政宗の所に頼まれ事があって」
「政宗?」
舞の口から、自分以外の男の名が出た事に、過剰に反応してしまう。
秀吉はちょっと面白くなさそうに、言葉を続けた。
「頼まれ事って?」
「本当は縫い上がった着物を届けるだけだったんだけど、来るついでに、ちょっと縫ってほしいものがあるって言われて。 なんかね、やんちゃして着物の裾を破いちゃったんだって。 ふふっ、政宗らしいよね」
その光景が浮かぶのか、舞は面白そうに、くすくすと笑う。