第27章 不機嫌と暁の予知夢 / 織田信長
信長は不機嫌だった。
別に、内政が滞ってる訳でもない。
何処かで謀反があったと言う事も無し。
至って、平和だ。
しかし、信長の心は穏やかでは無かった。
何故かと言うと……
(今日も舞を抱けぬのか……)
今、目下の問題。
舞に触れられない、と言う事だった。
「御館様、今夜の大名との宴会ですが……」
「……ああ」
「戌の中刻には用意が整いますので…」
「……」
「御館様?」
秀吉の話を、信長はうわの空で聞いていた。
舞とまともに話さなくなって、もう十日程になる。
平和と言っても、政務が暇な訳では無く……
昨日は一日中軍議。
今日は遠方の大名と、交友の為の宴会が。
明日からは治めている土地の検地に、地方へ行かなければならない。
やる事は、山積みだ。
(今日も帰るのは眠りについた頃だな)
毎日、舞が起きる前に天主を離れ、眠りについた頃に帰って来る。
舞とは必然的にすれ違ってしまい……
その手に温もりを感じられない事に、信長は思っても見ない程、打撃を受けていた。
(そのような事は誰にも言えんがな)
少し遠い目をした信長の変化に、気がつかない秀吉ではない。
場を変えるように一つ咳払いをして、秀吉は続けた。
「御館様、一つ提案なのですが」
「……なんだ」
「宴会まで、半刻程時間があります」
「……それがどうした」
「舞に会って来たらいかがですか」
『舞』と言う単語に、信長がぴくりと反応する。
秀吉を見ると、秀吉は苦笑しながら信長を見つめていた。
「やっぱり…最近話もしていないのでしょう」
「……」
「舞なら少し前に帰って来ていますよ。 多分今を逃すと、会えるのは検地から帰って来てからになるので……そんな憔悴された信長様は見て居られません」
感情など表には出さないようにしていたが……
いつも側にいる側近には解ってしまうらしい。
信長は憮然として秀吉に言った。
「そんなに顔に出ているか」
「はい、ハッキリと」
「……そうか」
(まさか、見抜かれるとはな)
信長は少し面白くなさそうにため息をつく。