第24章 見えない内に、戴きます! / 伊達政宗
その日、政宗と舞は青葉城から少し離れた山のふもとにある、温泉に来ていた。
最近天然温泉が湧いたと、政宗の耳に入り……
たまには舞を労ってやろうと、連れてきてやった。
まぁ、理由はそれだけでは無いのだけど。
「温泉なんて、楽しみだなぁ」
舞は、向かう馬の上で、政宗に背中から抱かれながら、嬉しそうな声を上げる。
多分、顔をふにゃふにゃにして喜んでいるのだろう。
政宗は片手で手綱を引き、もう片方の舞を抱く腕に力を込める。
「久しぶりだからな、二人で出かけるの」
「うん……政宗、とっても忙しかったもんね」
このところ、安土近隣の大名の制圧に向かっていた政宗は、青葉城にろくすっぽ帰って来ていなかった。
もちろん、舞は青葉城で留守番だったため…
本音を言うと、舞を構いたくて仕方なかった。
「お、見えてきたな」
少し離れた所に、湯気が上がっているのが見える。
舞もそれを確認したのか、振り返って政宗に笑いかけた。
「私、たくさん温泉入るっ」
「おお、そうしとけ」
(やっぱり、この笑顔、最高に好きだな)
政宗はくすっと笑って、走る馬を早めた。
温泉近くの宿に着き、浴衣に着替えた政宗は、時間を持て余して、部屋に敷かれた布団の上でゴロゴロしていた。
本当だったら、宿に着いたら、ひとしきり舞と愛し合って、その後一緒に温泉に入って……
一応、予定は立てていたのに。
温泉の魔力なのか、舞はさっさと温泉に行ってしまった。
(何の為に、温泉貸し切ったと思ってる)
それもこれも、舞をベタベタに甘やかすためだ。
だから、今までどんなに忙しくても、なんとか堪えてきたのに……
(駄目だ、これじゃ俺が持たねぇ……っ)
政宗は悶々とする気持ちを抑え、手ぬぐい片手に温泉へと向かった。
舞は怒るだろうが、そんなのは関係ない。
自分の領域に持っていってしまえば、こちらのものだ。