第21章 甘味よりも甘い物 / 明智光秀
「……っ! 光秀さんっ」
「早く取れ、そこじゃ俺も届かない」
「は、はい」
舞を背中から抱きながら、上を伺う。
舞は鈍臭そうに、腕を上げ手元を動かしていた。
(時間が掛かりそうだな)
落ちないように、腕に力を込める。
とても柔らかな感触。
背中辺りからは、何とも言えない甘い香り。
(…………っ)
それを感じてしまい、思わず息が詰まった。
「光秀さん、取れました。 降ろしてください」
「…………」
「光秀さん?」
力を緩め、舞を地に降ろす。
しかし、身体は離す事が出来なかった。
舞に腕を回し、しっかり胸に抱き締める。
そして、髪が結い上げられ、そこから覗いている白いうなじに、そっと唇を寄せた。
「……っ、光、秀、さん……っ」
「じっとしてろと言った筈だ」
「……っ」
(舞、お前の事が、好きだ)
気持ちがとめどなく溢れて、止まらない。
この腕を、離さずにいられたら、どれだけ幸せか。
そう……どれだけ。
「お前が手作りの甘味を作るのはどんな男だ」
「え?」
「お前の好いてる男だ、よほど良い男なのだろうな」
舞は暫し黙り込み……
やがて、首筋を真っ赤にさせて答えた。
「はい。 とても優しくて……素敵な人です」
「……そうか」
(何故、俺はがっかりしている)
『それは、貴方です』
そう言ってくれるのを、何処かで期待したのかもしれない。
「私……明後日の14日に、告白しようと思うんです」
「……そうか」
「14日はバレンタインデーなので」
「ばれんたいん?」
聞きなれない単語に、思わず聞き返す。
「私の居た所では……2月14日は、女の子が好きな人に甘味をあげて、気持ちを伝える日なんです。 だから…」
「……そうか」
「なんで……さっきから、そうか、しか言わないんですか?」
「それ以外、何を言う事がある」
すると、舞は光秀の腕を振り払い、向き直った。
瞳が吸い込まれそうに、キラキラしている。
(何故、そんな目で見る)
思わず見惚れていると、舞が口を開いた。