第21章 甘味よりも甘い物 / 明智光秀
いつからだろう。
あの向けられる笑顔が、愛しいと思い始めたのは。
『光秀さん』
名前を呼ばれる度に、苦しい程に胸が詰まるようになったのは。
そして。
この腕に抱き締めたいと。
切に願う自分に、呆れながらも抗えなくなったのは。
「うん、なかなかだぞ」
光秀の一言に、舞はふにゃっと笑みを浮かべた。
その日、光秀の御殿には舞が訪れていた。
団子を片手に引っ提げ『光秀さん、食べてください』と、意気込んで来たのだ。
舞の手作りだろうか。
胡麻がたっぷりかかった団子を頬張り、光秀は率直な感想を述べる。
「この団子は、俺の好きな茶屋の団子によく似ている」
「本当に?! じゃあ、美味しいですか?」
「この弾力のある噛みごたえは、なかなかだ」
予想外の感想に、舞は『えっ?』と少し驚いた顔をした。
「えーっと、味を聞いてるんですが」
「そんなものは必要か?」
「そこ、一番重要でしょう!」
「俺にとって団子は、弾力があるか否か、その中間か、くらいしか違いは解らん」
「そんなぁー……」
一気に舞が脱力する。
あからさまにがっかりした表情だ。
そもそも自分に、甘味なりし、料理の味の感想を求めるのが間違っている。
『美味しい』と言って欲しいなら、もっと別の人間を選ぶべきだ。
「そんなにがっかりするなら、何故俺の所に持ってきた」
「え?」
「秀吉あたりに食わせれば、もっと有意義な答えが得られたと思っただけだ」
すると、舞は目を釣り上げて言った。
「秀吉さんは駄目です」
「何故」
「まずくても、美味しいって言うから」
その光景がありありと想像出来て、光秀は思わず苦笑した。
あれだけベタッ可愛がりしている妹分の作ったものなら、なんとしてでも食べるだろう。
「光秀さんなら、的確に感想くれるかなぁって」
「俺は的確だろう」
「私が未熟って言うのは解りました。 精進します」
そう言って、しょぼしょぼと団子を口に運ぶ。
その姿がちょっと哀れに思い、光秀は舞の顔を覗き込んだ。