第17章 Border Love / 信長、政宗
政宗は瞬間的に信長を見る。
信長は不敵にニヤリと笑った。
(まさか、さっき出ていった時に……)
二人の間にあったやり取りを考えるだけで、非常に腹が立った。
政宗は舞のほうに向き直ると、そのまま瞳をじっと見つめ……
信長が付けたであろうその痕に唇を寄せた。
「……っ、政宗……っ」
舞が焦がれた声をあげた。
政宗の唇が離れた瞬間、急いで首筋を手で隠す。
「悪い、少し酔ったかも」
「え……っ」
「酔い覚ましに外の空気吸ってくる……お前も行くか?」
ダメ元で誘ってみる。
すると、意外に素直に舞を首を縦に振った。
「心配だから、ついていく」
そう言う舞に連れ添ってもらい、政宗は席を立った。
あわよくば、このまま舞を連れて、トンズラしてしまおう。
そこまで考えたのに。
「舞」
後ろから、信長の声が響いた。
二人で振り返ると、あぐらをかいた膝に肘をついて、信長は面白そうにこちらを見ていた。
そして、艶っぽい声色で言う。
「今宵も、夜伽を命ずる。 半刻経ったら天守に来い」
舞の肩が、ぴくっと動く。
顔を見ると、少し白く、身体は小刻みに震えている。
(舞……っ)
「……行くぞ」
政宗は低く言い放ち、舞の肩を抱いた。
そのまま広間から逃げ出すように、舞を連れ出す。
不穏な空気だけが、その場に残り……
そのやり取りを見ていた秀吉が口を開いた。
「政宗、あいつ……不毛にも程があるぞ」
広間を抜け、廊下を抜け……
少し離れた庭で足を止める。
そこでようやく、政宗は舞の肩から手を離した。
舞は政宗の顔を少し見て、やがて俯いた。
「政宗、ありがとう」
「何が」
「解んなくていいよ、お礼が言いたかっただけ」
(舞……)
政宗は手を伸ばし、さっき口付けた首筋に指で触れた。
舞の肩がぴくっと上がり、視線を上げる。
二人の視線が絡み合い、やがて政宗がゆっくり口を開いた。