第12章 おそ松さん《3:松野カラ松》
『じゃあ、いってきます』
そう行っていつものピンヒールへと
足を通していると
「‥‥?」
いつもよりか細い声で名前を呼ばれる
『ん?』
不思議に思い
少し下を向くカラ松の顔を覗き込めば
顔を赤らめもじもじとしている
「おそ松に聞いたんだが‥‥
俺も‥‥その」
昨日の行ってきますのキスの事だろうか
迂闊だった、長年付き合ってきているのに
すっかり忘れてしまっていた
1人にしたら6人にしなければいけないのだ
はあ、と大きな溜息をつき
『目、つぶって?』
の、言葉にカラ松はぎゅっと目を瞑る
「」
「‥‥?」
「照れているのは分かるが、
その、こうやって待っているのも
中々恥ずかしいというか」
「‥‥全くシャイガールだな」
「?」
待ちくたびれたカラ松は、
強く瞑った目をゆっくりとあけると
灰色の冷たい玄関扉だけが目の前に広がる
ゆっくりと視線を下せば
いつものピンヒールもなく自分の革靴だけが
ポツリと残されていた
「‥‥‥ーーー?!」
その日の朝マンションには
男の儚げな叫びが響いた。