第5章 突然の遭遇──
「じゃあまさか……綾子さんが見た物って……」
蘭ちゃんが答えを出すのを怖がるかのように言った。
「そうや!何も答えが書かれていない、白紙の答案用紙や!」
なぜ答えを書かなかったのか。それは書いても無駄だから……。
つまり戸叶さんは知っていたのだ。テストを採点してくれるオーナーがもうこの世にはいないということを。
「それがデタラメだというのなら、あなたの答案用紙を見せてくれへんか?今すぐに!」
そこまで追い詰められて、やっと戸叶さんは自白した。
動機は、藤沢さんとオーナーがホームズ本を出したこと。本を出したこと自体を恨んでいるのではなく、その内容を認めたくなかったのだ。タイトルは──『アイリーン・アドラーの嘲笑』。
「アイリーンはシャーロックが唯一認めた女性……。その彼女がシャーロックを嘲笑うなんて……僕には考えられない……。許せなかったんだ……日本屈指のホームズフリークのあなた達が出した本だからこそ許せなかった……」
はぁー、とため息をついた私はコナン君のところへ向かった。
「あ、コナン君……」
「なぁ……お前、工藤やろ?」
平次君はどうやらコナン君に向かって話しているらしい。私はたたたっと慌てて駆け寄り、「何してんの!?」と声をかけた。
「おお姉ちゃんええトコに来たわ!実はこいつな、」
「は?コナン君が新一だってことなら知ってるわよ。……ったく、あれほど誰にもバレるなって言ってたのに……」
私が大きくため息をつくと、コナン君は片手で私を拝んだ。
帰りのバスの中でコナン君は平次君に事情を説明していた。自分が薬で幼児化した高校生探偵の工藤新一だということ、今は蘭ちゃんの家に居候しているということを、洗いざらい全て。
「あーあ、西の高校生探偵なめてたわ」
「そやで、オレのことなめとったらあかんで!」
平次君に言われ、私はぷいっと窓の方を向いた。
「でも姉ちゃん、工藤とどういう関係なんや?」
「姉よ。新一のね」
端的に答えたのは不機嫌だったから。そして別に組織のことを話す必要はない、と考えたからだ。
「だから幼児化も知ってたっちゅうわけか……」
「そーゆーこと。分かったらさっさと大阪帰ってよ」
思わず喧嘩口調になる。
家に帰るまで、ふくれっ面の私の機嫌は治ることはなかった。