第28章 緋色──Rye, Bourbon, Russian
「し、しかし……追えと言われてもこの状況では……」
電話から聞こえる上司の怒声に、赤井達を追っていた男らは戸惑いつつそう言った。その時、キッと車が停まった。
「大丈夫か?」
「「あ、赤井……」」
「悪く思わんでくれよ……仕掛けてきたのはあんたらの方だし……ああでもしなければ死人が出かねぬ勢いだったからな……」
赤井は提案として、安室と繋がっている電話と自身が発砲した拳銃を交換してもらうように頼んだ。
「おい?どうした?状況は!?応答しろ!」
『久しぶりだな……バーボン……。いや……今は安室透君だったかな?』
私は電話から聞こえた声にどきりとした。
『君の連れの車をオシャカにしたお詫びに……ささやかな手土産を授けた……。
楠田陸道が自殺に使用したグロッグ17(拳銃)だ……。入手ルートを探れば何か分かるかもしれん……。ここは日本……そういうことは我々よりも君らの方が畑だろ?』
赤井さんのその言葉に、安室さんの表情は一変した。
「まさかお前、俺の正体を!?」
私は少し取り乱している安室さんにちらりと視線を送った。
『組織にいた頃から疑ってはいたが……あだ名が『ゼロ』だとあのボウヤに漏らしたのは失敗だったな……。
『ゼロ』とあだ名される名前は数少ない……調べやすかったよ……。降谷零君……。
恐らく俺の身柄を組織に引き渡し、大手柄を挙げて組織の中心に食い込む算段だったようだが……。これだけは言っておく……。
目先のことに囚われて……狩るべき相手を見誤らないで頂きたい……。君は、敵に回したくない男の1人なんでね……』
赤井さんは最後に“彼”の事を謝り、その場を去った。
安室さんは少しの間、怒りに震えていたけど、すぐに電話を切ってリビングを出ようとした。
「……帰る前に……1つ聞いていいですか?」
安室さんは昴さんを振り向いて言った。
「どうして僕のような怪しい人間を家に入れたりしたんです?普通入れないでしょ?」
昴さんはまた1つ咳払いをしてから答えた。
「是が非でも話をしたいという顔をされていたのでつい……。随分、話好きな宅配業者の方だなぁと思ってましたけど……」
その返答にポカンとした安室さんに、私はくすくす笑った。